第六百七話
「「MS隊出撃!」」
示し合わされていた時間となり、ネオ・ジオン、連邦討伐軍同時に指示が飛び、続々とMSが撃ち出されていく。
「ガンダムの大安売りだな」
ネオ・ジオンパイロットの1人が背筋を凍らせながら呟く。
彼は一週間戦争からの古参パイロットであり、ア・バオア・クー戦にて本物のガンダム――白い悪魔と相対した経験を持つ。
「あれほどは怖くないな……MSの性能のおかげ――とは思えないんだよなぁ」
今でも鮮明に思い出せるガンダム(白い悪魔)。
時代が流れ、MSの性能は大きく進化し、自身が乗るMSの性能は間違いなくあのガンダムを上回る性能を有している。
しかし彼にはイマイチ自信が持てなかった。あの悪魔に勝てる、という。
「6機で挑んで俺以外全滅だもんなぁ。しかも1分も経たずに」
彼が生きているのは白い悪魔と健闘したからではなく、中途半端に損傷し、トドメの前にジオングが近くに現れたことでそちらに気を取られて逃げ果せれただけである。
「おかげで今まで生きてこれたって感じもするが感謝する気にはなれないな」
デラーズ・フリートに参加し、アクシズの支援を受けながら地球圏に留まって残党狩りを行うティターンズと戦い、そしてエゥーゴやティターンズの抗争が激化し始めてからは様子見しながらアクシズが地球圏に到着してからはアクシズに所属、グレミーの反乱鎮圧にも参戦したというベテラン中のベテランである。
それらを生き抜いてこれたのは白い悪魔との戦い以降、あれと比べたら大したことはないと思えるようになったからだと思っている。
「とはいえ腐ってもガンダム、相応にきつい――――」
彼の言葉は言い切ることができなかった。
自覚がないが彼はニュータイプとして覚醒していた。ただし、能力には偏りがあり、危険察知能力に特化している。
その今まで命を繋ぎ止めてきた危険察知能力が盛大に壊れんばかりに警報を鳴り響かせている。
「あ……あぁあ――」
呼吸ができなくなるほど喉が狭まり、心拍数は緊張が過ぎて逆に低下し、脳は理解を拒否している。
「や、奴がいる。白い――悪魔が――」
ガンダムはいるがガンダムではない。そう思っていた。
しかし、ガンダムが多く配置されている部隊の最後尾にいるガンダムは間違いなく、『あのガンダム』だと本能が叩きつけるように告げている。
「ま、間違いねぇ。あれは――あれがガンダムだ」
冷や汗も脂汗も止まらない。なんだったらちょっと漏らした。前も後ろも。
「ど、どうする。あれと戦ったら――」
脳に刻まれた次々と戦友達を散らしていく恐ろしい白い悪魔の残影が思考を麻痺させる。
だが、その麻痺のおかげで直近に宰相であり総指揮官であるハマーン・カーンから直々に声を掛けられたことを思い出した。
『不測の事態を察知したすぐに知らせよ。頼んだぞ』
ハマーンは彼がニュータイプであることを知っており(ファンネル適性がなく操縦技術そのものは平凡であるため本人に知らせていない)、経験豊富で生存能力の高い彼に敵の強さを見極めることを任せていた。
それを思い出した彼は――
「通信を――いや、緊急通信案件だ」
初陣のパイロットが多いため、統率に優れたパイロットはそれに専念するためティターンズが開発したアイザックを更に改修した機体が配備され、彼はその1人だった。
強い敵がわかるということはそれに適した戦力を当てることが可能であるということでもあったからだ。
そしてミノフスキー粒子下でも拙いながらも通信可能なように改造されたアイザックは高出力レーザー通信が可能になっている。
「まだ開戦して間もない――よし、なんとかこの粒子量なら問題ないな。こちらブルーウルフ・ワン、コード・000!」
『何があった』
緊急通信ではあるがまさかほぼ間髪入れずに忙しいはずのハマーンが直々に応えるとは思っておらず一瞬言葉が詰まるが、それどころではないと思い直し――
「白い悪魔がいます!位置情報を送ります!」
ハマーンは報告を聞いて表情こそ取り繕っているが、内心では舌打ちしたい気分だった。
白い悪魔、アムロ・レイとはあったことはないものの
『……受け取った。よくやった。フル・フロンタルに相手をさせる。手を出すな』
「了解……アレを相手せずに済むのは嬉しいが……」
いまだに収まらない精神状態をなんとか抑え込み、リーダーとして精神状態が機体の操作に出て士気に影響がでないように心がける。
新米ばかりであるため士気の高さは戦闘力に直結する。指揮官が混乱していては勝てるものも勝てない。