第六百八話
「フル・フロンタル……大丈夫なのだろうな」
出撃に向かうフル・フロンタル……シャアに問いかけた声には若干の不安が込められていた。
「さて、やってみなければわからんよ」
相手はどちらのアムロ・レイか正確にはわからない……はずだが、自分と共に来たアムロ・レイであるとシャアは根拠もなく確信していた。
そして、この時代のアムロ・レイならついこの前まで実戦から離れて腕が鈍っているので勝ち切るかはわからないが、負けはしないと思っているが、共に来たアムロ・レイには正面から戦い敗れ、ここにいる以上思いとしては負けるつもりはないが現実としては負ける可能性が濃厚である。
しかも、今回は相手の機体が未知数であることもまたその可能性を引き上げる要因となっている。
前の戦いにおいてはνガンダムの情報は既に掴んでいたし、サイコ・フレームそのものがネオ・ジオンからもたらされた技術であったし、それに加えてνガンダムそのものが未完成機、連邦が軍縮に舵を切っていることもあって生産性やメンテナンス性、拡張性を重視した息の長いニュータイプ専用機というコンセプトで設計され、ワンオフというわけではないが特注であることが多いガンダムよりもジムやジェガンのような設計思想である。
そんな機体であるため基本性能はニュータイプ専用機であるため高いが、アムロ・レイが乗るという意味では不足があった。
そんな機体にすら深傷を負わせることもなく敗北しているのだから今回がどうなるかなど明言できるはずもなかった。
(しかし、この世界にとって私達は異物……消えてしまった方がいいのかもしれん……が、あそこには私達以上の異物が存在するのだから今更だろうがな)
自身の機体とハマーンの機体を手掛け、今世界で1番の戦力を有しているだろうミソロギアという自分達とはまた違う世界から訪れた者達。比較して2人のニュータイプなど小さなものだろうと心の中で漏らす。
「では行ってくる」
「健闘を祈る」
戦力はネオ・ジオン290機に対して、連邦軍は530機。
連邦軍がこれほどの軍を動かしたのは一年戦争以来のことであり、その分だけ本気度が見えるというものだ。しかもそのうち200機は新米とはいえニュータイプである。
もっとも現場のパイロット達の評判は悪い。
ニュータイプだとかいう訳のわからない存在がろくに訓練もされていない新米に背中を任せることになることや、そんな未熟者が明らかに特別扱いされているとしか思えない機体を充てられていることなどが主な理由だ。
しかし、士気はそれほど悪くなかった。
ティターンズとエゥーゴが相打ちしたことで相対的に地球連邦軍の役職も穴だらけになっており、そして戦功を上げる機会まで訪れた。つまり、勝利すれば出世することも夢ではないからだ。
ネオ・ジオンは数的不利はいつものことで、ここが正念場であるということで士気は高く、問題ないが連邦軍と同じように新米が多く投入されていることや内乱からそれほど経っていないための疲労感などがあり、万全であるとはとても言えない内情である。
そんな期待と不安を内包しながらも火蓋は切られた。