第六百十話
「ララァ――俺は――ララァ――僕は――」
「そんな姿ではララァも悲しむぞ、アムロ。――とはいえ、ニュータイプを強化するとここまで厄介なものになるとは、な!気分が悪い」
感じるのはアムロ・レイの気配なのは間違いない。しかし、その気配はあまりにも違う。
フル・フロンタルの不愉快さは前が清水ならば今はコールタールを強制的にぶっかけられているに等しいほどだ。
「それに――νガンダムよりも厄介だなッ!その機体はッ!」
アムロ・レイの乗る機体はビームライフル、サーベル、シールド、ライフルにマウント可能なグレネードランチャーとライフルとシールドにマウント可能なバズーカとサイコミュ兵装がない比較的シンプルな武装で固められている。
「ちぃ、反応速度も機動力も今までの機体の比ではないぞ」
アムロ・レイの乗る機体は人間の、ニュータイプの限界を、上限を測るために開発された機体であるためブースター出力(メイン推進器)やスラスター出力(方向転換用推進器)を新技術まで導入し、防御性能は極限まで削って軽量化、現時点での標準サイズのMSの中では世界最速の機体と言えるできとなっている。
もちろんサイコ・フレームも多く使われ、更にはインテンション・オートマチック・システムという思考操縦システムが投入され、今までにない反応速度を実現。
――平たく言うとシナンジュ・スタインのインテンション・オートマチック・システム搭載機である――
「また――また――俺は失うのか――また――また――奪うのか――シャアッ!」
「奪ったのはお互い様だろうっ!!」
フル・フロンタルの乗るスパシ・ジャジャの数少ないファンネルは既に落とされ、ライフルとサーベルのみで激しい戦いを繰り広げている。
その戦いは余人の介入を許さず、一定距離に近づけば敵対する側のビームライフルが襲い、良くて中破、大体は大破か撃墜されて消えていくためルールなどない戦場でありながらも決闘の様相を呈していた。
そしてアムロ・レイの気配を感じて気分を悪くする者が他にもいた。
「あれが白い悪魔だなんて……醜い悪魔の間違いじゃないの」
なんとかアッティスでの出撃許可をもらったハマーンは戦場の外側から、うへぇという副音声が聞こえそうな表情を浮かべる。
「アレンならあれも治せるの?」
操縦席(アッティスが元々採掘船の改造船なので艦長席っぽい)に座るハマーンは脇に用意された席に座るアレン(人形)に話しかける。
「治せるな。フォウやロザミアと違って短期的に強化を施しているから脳への影響はまだ少ないからな。しかし――」
「助ける理由もなければそんな余裕もないみたいね」
「あの機体、前の世界のMSよりも優れているな。時代はまだこちらの方が早いというのに」