第六百十八話
「ねぇアレン」
「ああ――突然気配が現れたな」
ハマーンも気づいたようだが……ここまで近づかれるなど通常はありえない。
いくら戦場で気配が溢れているとは言っても相手がニュータイプならば気づかない私ではない。それが例え睡眠状態であったとしても、だ。地球ならともかく。
ならば、なぜ私が気づかなかったのか――
「昏睡状態だったからだろうが、この気配……強化人間に似ているようだが――このタイミングで覚醒させるというからには特殊なもの――ああ、なるほど」
気配の位置が妙だと思って探っているうちにソレは出撃したのを確認した。
覚醒から襲撃まであまりにも短くて驚いたが、改めて確認するとガンダムタイプ……残念ながら既知である量産型νガンダムが2機。
気配の位置がおかしいと感じたのは普通ならば覚醒から出撃までそれなりの時間が必要だ。にも関わらず気配を感じ取ってから出撃まで1分も経たずに出撃までするなどスクールへ向かうだけの学生でも不可能だというのに戦場でそれをするなど暴挙に等しい。
それがなぜ可能なのか。
連邦の外道さは今に始まったことではないし、私が言えたことでもないが――
「ニュータイプの脳だけを使ったシステムは私もSFアニメで見て考案していたが、脳だけにするメリットが少なくて廃案としたがこういうメリットもあったか」
パイロットの究極的ユニット化。
強化人間よりも更に兵器化を進めたもの……なのだが脳だけとするとコクピットの縮小化、生命維持に必要な栄養素の節約などがメリットもあるが、脳だけとなったところで人間であることに変わりがなく、肉体がない状態では精神に異常を来たすことが多い。
実際私も試したが、私が用意できる実験体では前提条件がかなり難しいことが判明した。
肉体を捨てることを強要する形で行えばすぐに精神が崩壊してしまう。つまり、本人の意志で肉体を捨てる必要がある。そして肉体がないことによるストレスを耐えるだけの精神的支柱が必要だ。
軍人なら忠誠心や愛国心などで保てるが、実験体だとそういう精神的支柱がない。
プルシリーズを使うという方法もありはするが、それに耐えられるとなると上位ナンバーを使うことになるが、成功したところで得られるのがデータ以外特にない実験に費やしていい資源ではない。
そんな扱いづらさがあるにも関わらず結局は脳の維持は肉体の維持よりも手間がかかる上に精神不安定で格納庫内でMS暴れたり、同士討ちを始めたりと扱いが難しい。
「そんなのにハマーン閣下が止められると思っているのだろうか」
「どう考えても苦し紛れの一手よね」