第六百二十六話
「レナス」
突出した戦艦は目立ち、それを叩こうとジェガンの数が増え続け、ファンネルだけで対応する限度を超えると判断したハマーンはレナスを放出する。
この段になってやっとネオ・ジオン、地球連邦両軍がそれがミソロギアであることを認識した。
今までミソロギアとして表で活動していたのは母艦級とMD艦、後は使いまわしであるコロンブス級やミデア級などであって、アッティスが戦場に出てきたことはなかった。
「ふふふっ……レナスを見ただけで士気が下がっているのが手に取るようにわかる」
レナスの天使のような見た目とその戦闘能力の高さに両軍で話題になっていた。
機体のデータこそ隠蔽しているが戦闘データは隠す気がなかったこともあり、多くの情報が行き交った。
その結果、恐れを多く振り撒き、今、予想していない芽が出た。
「とはいえ、油断は禁物」
彼らの知るレナスの強さとは雲泥の差であるからだ。
プルシリーズが直接操るレナスとハマーンが統率するMDでしかないレナスでは強さは大きく異なる。
いくらハマーンやイリア、プルシリーズや実戦経験が豊富なカミーユやシローのデータが組み込まれた強化人間人格OSとはいえ、強さという観点から言えば下位ナンバーにすらも劣る。
しかし、強みもあった。
プルシリーズの前々から課題となっている連携はプログラム故に問題とならず、感情がないゆえの安定したパフォーマンスを発揮し、サイコミュであるから1人の意思によって統率される。
そしてレナスの出現そのものにも効果がある。
ファンネルだけで応戦していた時よりもレナスが混ざったことにより、明らかにファンネルが動きやすくなった。
それはサイズ的にレナスに目が行きやすいということにある。
戦力的には操縦者の意思が強く反映されるファンネルに劣るが視覚的にいえばレナスの方が勝る上に、連邦軍はレナスをMSと、有人であると思っていることで優先順位がファンネルよりもレナスへと意識が割かれてしまう。
そこに付け込んで自由を得たファンネルが次々とジェガンを刈り取って行く。
「もう少し、もう少し――」
「つくづく引きが弱いな。私は」
思い人は正規の軍人ではない。
そしてハマーン閣下の感応能力は以前より向上しているとはいえ、多くの人間が乗る艦艇の中から1人のオールドタイプを探し出せるほど成長はしていない。
故にこれは、と思う艦艇の武装を尽く焼き払って無力化してから近づき、接触回線で呼びかけては返事を聞く前に離れて次へと向かう。
呼びかけた段階で軍人ではなく政治家という殺し合いに慣れていない素人なので名前を出して要求さえすればわかりやすい反応が返ってくることは間違いない。そしてそれを察知することができる。
そして既にそれらしい艦を捕まえて5隻目。
それらしい艦は残り2隻と考えれば運が悪い。
「ちっ、追いついたか」
艦と接触する必要があるということは速度を殺してしまっている。そうなれば元々追撃していた敵に追いつかれるのも自然のことと言えた。
「確かガンダムデルタカイと言ったか……嫌な気炎を撒き散らしおって」