第六百三十話
信号弾があがった。
降伏も撤退も認めない。屍を超え徹底抗戦せよ。連邦軍万歳!
などというアースノイド魂を魅せるわけもなく、停戦信号、我が身可愛さでこのまま続ければ勝てる戦いを敗北させるという無様さ……降伏信号でない当たりは根性を見せていると言える……かもしれない。いや、言えないか。
「これで表面上はネオ・ジオンの勝利となったか」
後は唯一残された総司令官でも軍人でもない政治家の命令による停戦命令に現場が言う事を聞くのか、新米パイロットが多い双方がスマートに停戦できるのか疑問ではあったが杞憂であったようですぐにとはいかなかったがそう経たずして交戦を止めた。
「ギリギリではあるが白い悪魔を確保。目標達成でいいな。アレン」
しかし、現状を鑑みると勝利と言っていいのかどうか甚だ疑問ではある。
MSの損耗率は64%、パイロットの損失率は50%と言ったところで、今も若干被害は拡大中で、最終的には67%、53%あたりになるだろう
艦艇こそ被害は少ないが、機動戦力とパイロットをこれほど失っては立て直し以前に組織として維持するのも困難なのではないか。
「敵も21機落としたし」
マシュマー・セロやキャラ・スーンが出せなかったのは痛かったか。
あの2人の強化処置はネオ・ジオンのニュータイプ研究所が行ったわけだが、その研究所のほとんどがグレミー・トト側についたことで調整がほとんどできない状態となっていた。
私が調整しようと思ったが、歯がゆいことに上手くできなかった。理由はわかっている。
強化そのものは至ってスタンダードな手法だ。しかし、問題はその精神性、特に忠誠という土台として強化している。前の世界のマシュマーやキャラ、そしてイリアもそうだ。
その忠誠は良くも悪くも強固で、調整が難しい。今までのデータが揃っていたならなんとかできただろうが残念ながらそれも無くなってしまっている。
日常生活や訓練程度なら支障がない程度までなら容易いが、問題は戦闘行動だ。
戦闘を行うとどうしても興奮状態になり、それが引き金となって制御を脱し、暴走状態に陥る。
それが連携を損ねる程度ならいいが、おそらく敵味方の識別ができずに襲いかかることになる。更に厄介なのは発光現象を引き起こした状態で暴走してしまえば一般兵では相手にならないだろう。
それに忠誠の対象がハマーン閣下だから2人を率いていればある程度はコントロールができるだろうが、今回の敵中突破し、重要人物を人質とする計画だと精神的不安がある強化人間は向かない。ハマーン閣下に殺意を向けた瞬間に例の政治家をまとめて消し飛ばす可能性があるからな。
ちなみに2人が置いてけぼりを知ったら取り押さえるのが面倒なので睡眠剤で眠らせている。
「ねぇアレン――」
今まで取り合わないことに不安を感じたようで声色にそれが滲む。
「マシンガンの被弾は大目に見る」
そう返すとハマーンがビクッと跳ねる。
「ミサイル8発はギリ許容するとしよう」
またビクッと跳ねる。
ハマーンが使うにあたってアッティスの装甲は私の運動性、機動性重視なものから防御性も向上させてあるのでMSが放つミサイル程度なら問題にならない。
「ビーム10発もコーティングで受けられると判断した上で確保のためにスピード重視にしたことだから良しとする」
ビクビクッと跳ねる。やはり自覚があるようだな――
「しかし、最後の最後、アムロ・レイを確保した瞬間を狙った戦艦の主砲を躱し損ねたな」
「うぅー……はい」
「私がシールドビットを操らなかったら沈みはしなかっただろうが……中破と言ったところか」
「ごめんなさい」
ハマーンはどうも私と共にいると空回りすることが多い。注意力散漫と良いところを見せようとしてしまう。
ハマーン閣下に比べたらちょっとポンコツな気がする……そのポンコツさが私の影響と思うと微妙な気分になる。
「むっ……むぅ~」
私がハマーン閣下と比べたことを察して一瞬機嫌が悪くなったようだが今回は自分が悪いと自覚して耳と尻尾があれば垂れている幻視が見えるほど落ち込んでいる。
「ハァ……初戦だからということで大目に見るが、ヘタをすると死んでいたことを自覚するように」
頭を軽くポンポンと叩いてアメも与えておく。
「んっ」
これで機嫌が直るのはチョロ過ぎて不安になるな。