第六百三十二話
「連邦は相変わらず連邦だな」
連邦はネオ・ジオン討伐の失敗した。率直に言うと敗北。
1人の政治家が己の命惜しさに下した降伏だが、連邦の敗北に違いはない。
しかし、これを世論に馬鹿正直に伝えると政権交代必至。
故に――
「大規模誘拐事件は一部の政府高官とある研究所の暴走による犯行であり、ネオ・ジオンに濡れ衣を着せ、討伐へ。しかし、討伐軍は正規軍は一部であり、ほとんどは問題となる研究所から捻出されているものでネオ・ジオンは独自の力で返り討ち、見事主犯を逮捕――と」
つまり、地球連邦政府は判断を誤ったが、ネオ・ジオンと戦って負けたわけではない。と言いたいらしい。
政府の汚名は許容できるが連邦軍の汚名は困るということだな。グレミー・トトの反乱によって随分とジオン残党は減ったようだが、それでもまだ少数ながらも存在するので連邦軍の責任にし過ぎて弱体化されては困るということだ。もちろんネオ・ジオンも仮想敵であるし。
連邦にとって幸いなのは負けたにしては戦闘そのものは優位に進めていたこともあって損害が小さく、ネオ・ジオンは大損害を受けていることである。
ネオ・ジオンを潰すことには失敗したのは事実だが、その戦力を半数まで減らすことには成功している。しかもネオ・ジオンは新兵を無理やり投入したことで予備まで底払いしてしまい、当面は戦力補充もままならないのが現状で、連邦もそれを承知である。
もう1度同規模の軍を起こせば連邦軍勝利でネオ・ジオンは負ける覚悟で戦うか、ジオン残党のように潜伏するかのどちらかしか選択肢はなかった。
そこで効いてきたのはカラバの存在だ。
勝敗が決する前に討論がされ、勝敗が決して勝ったのはカラバが乗っかるネオ・ジオンで、勝馬に乗れと元々戦争反対だったがネオ・ジオンも目障りだったために中立の立場で様子見していた政治家達が動いたことで実質ネオ・ジオン派となった。
討伐軍を指揮していた政治家は失墜、その一族であった政治家も同様、そして根本である大企業は株価を大きく下げることとなる……が、指揮していた政治家が主犯であるはずで、公式では逮捕となっているが、現実は逮捕ではなく、政界から追放されるだけであるあたり、やはり奴らは奴らなのだ。
だからジオン系の力がいつまで経っても潜在し続けるのだろう。
「とはいえネオ・ジオンも得るものがあったようで何よりだ」
悪ではなくなったネオ・ジオンは大きく戦力を削られながら勝者(実質どうかはさておき)として交渉は優位に進み、多くの利権を確保することができた。
その利権はサイド7と月、ルナツーを除くサイド3から比較して近いサイドとの関税の免除や取引優先権、資源小惑星の譲渡など(あくまでネオ・ジオンのもので実質支配しているがサイド3は表向きジオン共和国なので別物扱い)を引き出していた。
今まで実効支配的な形だったものが容認されることとなったものも多かったが利は大きい……が――
「しかし、しっかりと枷も嵌めたか」
ネオ・ジオンに対して人員の補充はジオン共和国内に限られた。
かなり激しいやり取りがあったが、このまま地球連邦と共存する武装組織とするならこれは絶対であると引かなかったことで飲むしかなかったようだ。
連邦としてはサイド3の人口程度なら戦力拡充もしている上に未だにサイド3に燻る反乱分子も炙り出せる。そしてネオ・ジオンを潰すことができればサイド3はもっと綺麗になるという狙いがあるようだ。
もっともネオ・ジオンと争うかは最近の立ち回りが柔らかなものとなったことで品定め中と言ったところか。
まぁ裏でハマーン閣下が操るクィン・マンサに恐れて、対抗するように『絶対の個』と言えるようなMSの開発を急がせているあたり、ハマーン閣下の活躍は想像以上に影響しているようだ。