第六百三十三話
「やはりあまり経たずに治療を終えそうだな」
薬物による強化が施されたアムロ・レイが入っている治療カプセルから私の見立てと同じ結果が弾き出された。
「もっとも精神の方はどうなるかは本人次第だが」
いくら一年戦争からのベテランニュータイプとはいえ、精神へ掛かる負担は一律ではないのでどうなっているかは目覚めてからになる。
「しかし、シャアもだが、よくこの身体でハマーンやプルシリーズとやり合うことができるな」
このアムロ・レイと前の世界のアムロ・レイは細かい違いがあるのはわかっているが能力そのものはそれほど差はないはず。
プルシリーズはもちろん、ハマーンも身体を施し、それは人間の域を脱している。
いくらニュータイプとして優れているとはいえ身体的能力はオールドタイプのパイロットとなんら変わらないアムロ・レイが私の作品達と健闘していたというのは驚きだ。
「しかし、ニュータイプとしてはハマーンやプルシリーズに及ばず、それどころかカミーユにも劣る……が、それでもパイロットとしての才能はハマーンをも上回る可能性が高い」
ハマーンやプルシリーズが前の世界のシャアやアムロ、シロッコを相手にして圧倒していたのは能力が大差でなかったことと圧倒的なMSの性能差によるものだった。
性能差がないもしなかったなら負けか、実質負けというほどの被害を受けていただろう。
もっともプルシリーズとまとめたが、上位ナンバーでも最上位5人に限って言えばアムロ・レイ相手でも同等以上の戦いが可能だろうが、5000近くいて5人。つまり0.1%か。この状態のアムロ・レイなら下位ナンバーでも100%勝てるがな。強化したつもりで弱体化させられているとは……本当に哀れだ。
それにしても遺伝子で確率が偏っているとはいえ、プルシリーズがアムロ・レイレベルの才能を引き当たるのはソシャゲのガチャで最高レアリティを引く確率より低いな。(調べてみたら3~5%ぐらいが平均?)
ニュータイプであることが確定していてこの確率となると通常の出生からアムロ・レイレベルのパイロットを引き当てるには運が必要か。
「治した後、協力してくれればいいが……幸いなのは私の世界のアムロ・レイでないことか」
最後の戦いでトラウマを抉るようなことをしていたのだから嫌悪されていても不思議ではないので可能性は薄いが、このアムロ・レイはまだ初対面。可能性は――
「あぁー……クローンに思うところがありそうか」
連邦軍に所属している者は正規軍人というだけあって頭が固い。経歴からすると真っ当な部類ではないがアムロ・レイも似た傾向にあるだろう。
ジャミトフやジュドー達のような訳ありでもなく、シロー・アマダやカミーユ・ビダンのような弱みがあるわけでもないアムロ・レイをこちらに引き込むのは手間がかかる可能性が高い。突破口はこの世界のアムロ・レイではないから天涯孤独であり、連邦軍からはモルモットとされたことで後ろ盾がなくなっている。
しかし、連邦政府は今カラバが主導権を握りつつある。
この世界のアムロ・レイは、このアムロ・レイがこの世界に来る前からカラバとして宇宙で活動していることからおそらくこのアムロ・レイもカラバとして活動経験があるはずだ。
「アムロ・レイが2人……あの機体を揃えられると万が一もあるな」
このアムロ・レイが乗っていた機体は強化という名の弱体化で台無しだったが、これが素だったなら脅威度は高くなる。
サイコフレームの使用量からあの発光現象を引き起こしやすくなるだろうし、そうでなくても純粋な機動性、運動性はνガンダムや前の世界のHi-νガンダムを上回っている。
武装の少なさから数で攻めれば対策はできるとは思うが、それも単機なら、の話だ。
「洗脳は能力低下を招く上に、長期となると不安定になった時は裏切られた時の損害が、なぁ」