第六百三十四話
「ちょっと考えたことがあるんだけど」
ハマーンが何かを思いついたようだ……ただ、その表情から察するに一般的に善と呼べるようなものではないことは察する程度には悪い顔をしている。
「その内時渡りをすることは間違いないのよね?」
「未知の現象を放置しておく科学者はいない」
「ならこの世界を征服してみない?」
「……ふむ?」
世界征服。
できるできない以前にメリットがあるようには思えない。むしろ手間やデメリットばかりのような気がするが……ハマーンがそう言うということは何か考えがあるのだろう。
まさかハマーン閣下に触発されたなんてことはない、はずだが。
「前提条件として私達はこの世界では人材的にも技術的にも絶対上位者だ」
「数はともかく質的にはそうだろうな」
「その数だってその気になれば補うことができるでしょ」
それがクローンの強みだから否定はしない。教育と管理に手間取るが。
「渡った後のことを考えてみたのよ。今までのスタンスも悪くないとは思うけど、この世界は前の世界と似ているからすぐに順応できた。でも次の世界がどんな世界かわからない。過去の世界なら問題ないでしょうけど未来や全く歴史が違う世界かもしれない。そんな世界に行くとなると色々と経験しておくべきだと思うのよ」
「それが世界征服だと?」
「ええ、政を学び、人を学び、苦労を学ぶ。私もまだまだ未熟。今まで本気ではなかったわけじゃない……けど、本気で挑むべきだと思う」
明らかにハマーン閣下を意識しているな。
私の助けがなかったハマーン閣下は相当苦労し、その分だけ政治家、指揮官として劣ってしまっていると感じている。
嫉妬は醜いなどという者がいるが、嫉妬は努力の糧。大いに結構。もっともハマーン閣下の努力を真っ向から否定するがな。
しかし、世界征服、か。
確かに面倒しかないと切って捨てていたが、それも価値がないではないか。
組織の大小でその運営は大きく異なることは想像ができる。
それにミソロギアは通常の組織とは大きく異なる。異なり過ぎて特に外部組織との繋がりを持つことが難しい。
今までは個人的な繋がり、同一存在という稀有な存在でどうにかしてきたが、それも通じない世界へと赴くとなれば外交も必要となる。
「独裁で世界征服するとどうなるかというのも興味があるのよ。今のところ民主主義の統一されていないでしょ?どうせ去る世界なら好き勝手してみたいと思いませんか」
「興味がないことはないが、そこまで手間を掛けて得る必要があるものかどうか……」
「私としては長期侵略を前提にしているの。そうすれば停戦、休戦を挟めば外交の経験も積めるし、何より戦争は――」
「科学を進める、か」
確かに目新しい技術が少ないこの世界ではあるが、また戦争となれば新たな技術が開発されることになる。
「世界征服か、やってみてもいいが……ちょうどよく戦乱続きで衰退している状態で、更に追い込めば面白いものがみられるかもしれないか」