第六十四話
『WINNER!アレン研究所、ドライセン!』
当然の結果だな。
今まで行われていたのは私が開発したドライセンと兵器開発部のジャジャとの模擬戦だ。
結果はアナウンスの通りだ。
カタログスペック的には既に量産前提のドライセンと試作機であるジャジャでは、コスト度外視であるジャジャの方が機動性、運動性は上回っている。
なら、なぜドライセンが勝利したのか……それはコクピットにある。
ジャジャは新しいタイプの操縦桿であるのに対してドライセンは緊急脱出装置……スミレがイジェクションポッドと名付けたそれはザクなどの旧式、ゲルググなどの最新式、そして私のオリジナルを用意されていて、パイロットが好きに選ぶ事ができる。
ちなみに今回のパイロットが選んだものは旧式だ。
旧式や最新式と表現しているが明確な優劣があるわけではなく、最新式は素人でもある程度操縦できるように調整されているオートマチックで、旧式は多くがマニュアル操作であり、パイロットの技量によって同じMSでも動きが大きく変わる。
それが一年戦争当時から前線で活躍していたベテランというのだから差が出て当然だ。
これがドライセンの勝利要因だ。
ついでに私が手がけた操縦桿の設計は簡略化され過ぎた最新式と無駄に機能が多い旧式の間を狙ったものだ。
本当は神経系と操縦桿を連結させるようなシステムでも開発しようとしたのだが、神経などという繊細なものを扱うには割かれる研究時間が多過ぎるため断念した。
そのうち手掛けるつもりではあるが……問題はこのまま研究を進めて、能力さえ満たしていれば外科的手術もなにも必要がないサイコミュの方が優良なのではないかという疑問が立ちはだかるが。
「ドライセン、調子は良さそうですね」
「ああ、久しぶりに普通のMSを作ったが、いい仕上がりだ」
アレン・ジールやガーベラ・テトラ、ザクIIN型などは特注のMSであり、量産型の生産というのは本当に久しぶりだ。設計図自体は結構書いているんだがな。
「相変わらずアレンはいい機体を作るな」
「ハマーン……様か」
呼び捨てにしようとしたら近くにいた親衛隊らしき兵士に睨まれたので仕方なく様付けで呼ぶことにした。
そんな私の言葉にハマーンは一瞬表情を顰めたが本当に一瞬だったのでの人間にはわからなかっただろう。
「ところでこの資料に書かれていることは本当か?」
「ああ、もちろんだ」
ハマーンが確認してきたのは部品互換のことだった。
……本当に財政がきついんだな。1番に聞いてくるのがコストに関してのこととは……不憫だ。
ドライセンの15%の部品はトゥッシェ・シュヴァルツことキュベレイ(仮)、25%はガザCとの互換がある。
残念ながら残りはさすがに旧式の機体やガザCのような廉価MSなどの既存部品では機体性能的に限界に来てしまった。
とは言え、資料によるとジャジャやガズは互換性はほぼない。
試験機ではあるが、後発ということもあって完成時はおそらくドライセンより高性能だろうがアクシズの懐事情を考えると——
「もうドライセンに決めてしまっても良いのではないか?」
「ハマーン様、そういう発言は困ります」
ハマーンの身も蓋もない発言を親衛隊が諌める……いや、なぜ私が睨まれないといけないのだ。言ったのはハマーンであって私ではないぞ。思ってはいたがな。
ちなみに資料には載せていないが、四肢もユニット化されていてこれから私が作るMSと互換性を保たせるつもりだ。
載せていないのは四肢の共通化を邪魔する兵器開発部への嫌がらせだな。後で知って悔やめばいい。
ハマーンもまだ知らないが後で教えるつもりだ。
「それとドライセンの装甲材には大量のガンダリウムγが使われているようだが……もしや?」
「ほう、察しが良いな。お察しの通りガンダリウムγの大量生産に目処が立ったぞ」
「おお……これでアナハイムの輸入に頼る必要はなくなるぞ……」
本当に財政キツキツなんだな。
……そういえば今更なのだが、私の研究所には違いないがアレン研究所という名称は初耳なのだが?
さて、兵器開発部のガズも撃破し、ニュータイプ研究所のハンマ・ハンマという機体はテスト段階でエラーが噴き出して棄権となった。
そして対戦相手の本命であるアナハイムのリック・ディアスとの対決……なのだが、どうもテンションが上がらない。
まぁ元々私が設計したMSだから当然といえば当然だ。
しかも、同じドム系列同士とは……なんとも言えない気分になる。
「そうかもしれませんがさすがは大企業のアナハイム・エレクトロニクスですね。性能としてはコストパフォーマンスがいいですよ」
「あちらは資源が豊富だからな。しかし、コスパがよくても所詮中途半端な機体だ。高性能機ほど良くもなく、量産するにはコストが高過ぎる」
ガンダリウムγはアクシズですら気にならなくなるはずなのだからアナハイムならなおのこと気にならないだろう。
しかし、機体につぎ込まれた技術の量が多すぎるため、生産コストもだが維持コストも掛かってしまう機体なのだ。
「しかし、そのコンセプト(旧式の技術の再検証)も再現されているようだな。是非試験データが欲しいが……話をしてみるだけしてみるか」
「あ、それなら私がしておきます」
「頼む」
スミレが来てからと言うもの、気楽な時間が減ったが、煩わしい用事が減ったことは嬉しい誤算だ。
それに研究が進まなくなった時はやはり他の者の意見は刺激になる。
「あ、始まるみたいですよ」
スミレに言われてモニターに視線を移すとちょうどドライセンとリック・ディアスがスラスターでお互いの距離を詰めているところだった。
ドライセンはビームライフル以外に追加武装はなく、リック・ディアスはバズーカと背中にビームピストルというライフルとは何処が違うのかわからないものを備えているようだ。