第六十五話
うーむ、さすが私が設計したMS達だ。
なかなかいい勝負をする。
設計した時期から考えるといくら量産機を前提にしているとは言えドライセンがリック・ディアスと互角の勝負というのは(私的に)ありえない。
ただし、それは私が設計したリック・ディアスの原型の話であって、ガンダム開発計画を手掛け、前線で培ったノウハウとジオン系技術者を多く取り込んだアナハイムが再設計したリック・ディアスがそれほど弱いはずがない。
やはりというか、ドライセンの射撃性能は低いものではないが、腕が接近戦主体ということで頑強さを優先したため柔軟性に乏しく、3連装ビームガンの追従性がリック・ディアスと比べると劣っているようだ。
これは改善の余地ありだな。
片腕に3連装ではなく、両腕に2連装ずつ……しかし、ビームランサーやビームトマホーク、それらを連結した長物などを振り回すことを考えれば両腕に付けるのは微妙か?それにエネルギーCAP……Eパックは未搭載で機体の出力で運用している関係上、ビームランサーなどの接近武装の運用を考えれば3門までしか同時使用ができない。
Eパックを使えばエネルギー問題は解決するのだが、今は別の問題が浮上している。
それはティターンズの耐ビームコーティングの進歩だ。
現在アクシズにあるエネルギーCAP技術では内蔵しておける出力では耐ビームコーティングを貫通できる有効射程は随分短くなってしまうことが判明している。
幸い現在の暫定主力機であるガザCのビームは機体から出力しているために高威力で遠距離からでも貫通できる威力がある。
ファンネルなら有効射程に入るのはそれほど難しくはないんだがな。
ちなみになぜビームガンを腕に内蔵させたのか、なぜ3連装なのかは腕に内蔵しておけば動力との直結がしやすくなること、3連装な理由は1門で連射をすると砲身が解けるための対策だ。
「ドライセンの生産コストはリック・ディアスの半分ですから仕方ありませんよ」
「まぁそうなんだが……やはり安くて強いは憧れるだろ?研究、開発者としては」
「それはそうですけど」
確かに生産コスト的には2:1でドライセンが有利だ。だからと言って2機用意するというのはなんだか負けた気がするのだ。
そもそもアクシズは国力が低いのだから物量戦が不可能なのだから質で上回るしかないのだ。
まぁ、国力が低いから質も上回れないのが現実なのだが。
「でも接近戦はかなり押してますし、中距離戦も言うほど負けているわけではありませんから量産は間違いないと思いますよ。ハマーン様もそう言っていましたし」
「さて、それもどうなるやら」
「え?」
コンペティションというのは本当に性能や生産コストだけで決まるのか、それは始めての経験ではっきりとはわからない。
しかし、ここで安くて優良ではあるが特典が何もないドライセンを採用するのか、アナハイムという巨大企業という盛りだくさんな特典付き……むしろどこかのビックリなマンのチョコとシールの関係のように特典が本命にならない保障は何処にもない。
「なるほど……研究ばかりしていたので知りませんでした」
「常識ぐらいは学んでおいたほうがいいぞ」
(…………………アレン博士にそんなこと言われるのはすっっっっっっっっっごい不本意なんですけど)
何やらスミレが不満そうな表情をしているが気にしない。
あ、決着がついたか……って、まさかのドライセンが勝った?いや、嬉しくはあるんだが一体何があったんだ?
「ハァ、急ごしらえで不備が発生したのか」
おそらく組み立ての際にミスが生じたのだろう。
突然スラスターが停止したところを間合いを詰められドライセンに一刀両断判定を受けたようだ。
何とも締まりが無い終わりだな。
私は軽く見ていたこのトラブルだが思った以上にアクシズ側の有利になる事故だったようだ。
リック・ディアスのトラブルはコンペティションだからよかったがこれが実戦なら堪ったものではない。
それはつまりどういうことかというとアナハイムのMSへの信頼が墜ちたということだ。
いや、正確に言えば『信頼が墜ちたというポーズ』を取ることができた。
これはアクシズ側が希少なアドバンテージを手に入れることに成功したという意味でもある。
おかげで色々と有利に取引を進めることができたようでハマーンもホクホク顔だった。
ああ、ちなみに量産型はドライセンに決定した。
戦闘内容、コストパフォーマンスの良さ、コンセプトの充実、全て最高評価をもらったが……私としてはまだまだ未完成品という意識が強い。
兵器開発部のジャジャやガズは試験機ではあったがなかなか見どころのある機体だった。
今回はコクピットのコア化したイジェクションポッドとそれに付属する操縦桿の差があったが、ドライセンが制式採用された以上、これらは他の機体でも反映されることになるから優位点が1つ潰れることとなる。
まぁコストの問題を解決するのは難しそうだがな。
「今回のことで兵器開発部には四肢の四肢自体の共通規格化は無理だったが接合部の共通規格化の話を通すことに成功したぞ」
「ほう、ハマーンもやるようになったな」
今回の件で予算を潤沢に貰っている兵器開発部が民間(?)である私達にコンペティションに負けたことで評価を大きく落とすことになった。
今まではお互いが違う畑だったり、違う作物を育てていたことで衝突することはなかったが、今回は全面衝突した結果、大敗。
ハマーンはこれ幸いと自分の都合がいい案を次々と相手に呑ませることに成功したようだ。
具体的な案でいうと開発仕訳、部品の共通化などだそうだ。
「しかし、アレンが設計したものほど共通規格化はできないのだな」
「ハマーン様。アレン博士を基準に考えないでください!」
「いや、わかってはいるのだが……」
「普通はザクを分解してドムになったりしませんから!!」
ん?いや、ザクとドムなんて開発時期がそれほど違わないからそれほど極端に違いは——
「違いますからね?!全然違いますから!そんなことできるなら一年戦争の時にドムにしてますから!」