第六百四十一話
「侵略を始めるまで後10ヶ月となったが、あえて侵略宣言をしようと思う」
「連邦軍に戦支度をさせようというわけか」
ジャミトフは理解が早くて説明が省けて助かる。
「それに加えてネオ・ジオンと手を切り、独立も宣言する」
「外交の経験を積むなら戦争を行うのだから巻き込んで少しでも戦力を引き入れるのが定石だが?」
「今のネオ・ジオンは足手まといだ。それに侵略目標上、邪魔だ」
「世界征服が目標じゃなかったのか」
「最初はそれもいいかと思ったが、それだけでは大義が立たない」
(大義……今更な気がするのだが)
「侵略目標は『地球から人類を完全に排除』だ」
「どこかで聞き覚えがあるないようだが、完全に、か」
「地球の人口を0を目指し、人類を宇宙へ強制移住させる」
「色々言いたいこともあるが……だから最近地球産の物資を増やし、コロニーを建造を始めたのか。まぁ地球に殺人ウイルスをばら撒かなかっただけマシか。手間は増えるが……なるほど、戦争の長期化させる理由もそこにつながるわけか」
「コロニー建造も地球産の生活資源も備蓄でどうにかなる量ではないからな」
水は小惑星にたまに氷が存在するし、酸素も同じように小惑星に酸化チタンがあれば手に入らなくもないが、どちらにしても非効率に変わりない。
「しかしそうなると地球連邦は徹底抗戦になるのではないか?」
「戦い続けることができないほど被害がでれば応じるだろう。もし応じなければ応じないで、こういうパターンもあるというデータを得られるし、それを応じさせるのも外交だ」
「外交は外交でも砲艦外交が過ぎる気もするがな。そういえば後から来たファ・ユイリィの説得が済んだという話は聞いていないがいいのか」
ミソロギア内部に今回の計画の賛否はファ・ユイリィと意識が回復していないカミーユ・ビダンとアムロ・レイを除いて積極的、消極的に差はあれど賛成となった。
ファ・ユイリィ1人で反対したところで変わらないミソロギアの方針に変わりはない。ないのだが――
「1人の人間を説得するというのは外交よりある意味難しい」
外交は利害調整であり、個人の意思はほとんど反映されない……こともないが、個人の意思で決定することはほぼない。
しかし個人の意思は理性だけでなく、感情に大きく左右される。
戦争をしていたにしては常識人であるファ・ユイリィを説得することは連邦の外交官を説得するより難易度は高い。
ちなみに前の世界のファ・ユイリィは常識人なのは変わりないが、別の世界であることやミソロギアの考え方にだいぶ染まっていること、そして一夫多妻、俗に言うハーレムの一員であることから社会的に外れている自覚があるためここ以外に居場所がないということ、そして最悪敗北してもまた違う世界に渡って逃げることができることも大きいようだな。まぁ小一時間ほど説教させたが。