第六百四十二話
「随分遅いお目覚めだな。気分はどうだ」
「ここは……」
「この部屋という意味なら治療が終わって2週間も眠り続ける王子様の安置部屋。場所という意味ならミソロギアという組織のコロニー内部だ」
「ミソロギア……俺達と同じ時期に現れたネオ・ジオンの特殊部隊だったか」
「次は私の方から質問だ。名前、所属、覚えている最後の記憶を話せ」
「アムロ・レイ、大尉……地球連邦軍ロンド・ベル所属……じゃなかったか、現状所属はないことになっている。最後の記憶……オークランド研究所に行って――それから――ウッ!」
次々と記憶の整理が行われ、感情の起伏も危険なレベルではない……自殺、自傷行為は思考に上がらないのを確認。これなら拘束具を外しても問題ないだろう。
治療中にでも記憶の有無は共鳴すれば引き出すことも可能だったが、強化処置によって精神が不安定になっている状態で共鳴してしまうとどのような影響ができるか不明だったため確認していないため、今が初めてだが――相変わらず連邦にしろジオンにしろ強化処置というのは悪趣味で非効率なことだ。
しかし、オークランド研究所とは……確かTRシリーズの開発に携わっていたはずだが、もしかすると――
「――捕虜を勝手に自由にしていいのか」
精神が安定せず、まだしばらくは会話ができないかと思っていたがさすが歴戦の勇士だ。精神立て直しをしつつも変化に対応しようとしている。
「ミソロギアのトップは私だ。問題ない」
「君がミソロギアの?」
相変わらず容姿の幼さが話の流れに足を引っ張る。
これが普通の容姿ならスムーズに進むだろうに、一々『こんな子供が?』と疑われる。
疑いというのはしばらく思考をそれに引っ張られることになり、解消するまでに時間を要する。本来相手が信用できる第三者を用意することでそれを削減することができるが、残念ながらアムロ・レイが信用する第三者となると1人しか思い浮かばない。しかし、その1人はハマーン閣下と共にネオ・ジオンと立て直し中である……宿敵が信用できる相手というのも皮肉だが。
やはりこういう姿形を重視するシチュエーションに合わせた人形を用意すべきか?しかし、関係を構築する上で姿形を偽るのはニュータイプ相手でなくても気分の良いものではない。騙す方も騙される方も。
それにハマーンやプルシリーズからも反対の声が多い……さすがに筋肉ムキムキ黒人(ビスケット・オリバ)は私からはかけ離れすぎたか。
「更に言えば現在ミソロギアはネオ・ジオンとは手を切り、独立した組織となる予定なので大尉を引き渡す道理もないし、そもそも大尉の身柄を確保したのは我々だ」
「……一体君達はどういう立ち位置にいるんだ」
「そうだな――世界から最も孤立し、世界で最も自由で、世界で最も狂っている小さな小さな組織(世界)かな……いや、世界で最も孤立しているのは大尉の方かな?」