第六百四十四話
「実は前の世界のアムロ・レイは我々との戦いにおいて大尉とはまた違った覚醒と言えるものが起こった――」
前の世界で起こした大戦、そして女性型MDによるララァの具現化とも言える現象を簡単にまとめて説明する。
「連邦、ネオ・ジオン、ティターンズと正面から戦う?しかも一方的な戦いなんて信じられるか……それにララァの姿をしたMSなんて……」
大尉は混乱しているようだ。
気持ちはわからんでもない。私も自身が直接見ていなければ到底信じられないだろう。
「もしかすると死者蘇生が可能になるのではないかと期待している。その実験に加わってくれるというなら可能になり次第ララァ・スンの蘇生を約束しよう」
記憶のデータ化、それを転写することによって死者蘇生を行ってみているが実現できていない。それにあのララァ・スンはアムロ・レイとは確実に違う思念を発していた。
つまりあのララァ・スンはアムロ・レイが妄想が具現化したものではなく、ララァ・スンの思念が存在したことになる。
その思念がどんな形であれ現実世界に影響を与えたとなれば、人間が個を形成するのには記憶以外のものが存在する可能性が高くなった。
そして大尉という存在である。
大尉は前の世界のアムロ・レイよりも孤独である。前の世界ですら恋人がいた状態でもララァ・スンの具現化した。
それならば孤独による想い、執着の強さが上昇し、強化によって伸びたニュータイプ能力によって大尉はおそらく前の世界のアムロ・レイよりもハードルが下がっているはずだ。
「今、連邦はカラバ派が優位となっているのは説明した通りだ。故にこの世界のアムロ・レイも所属していることから大尉も冷遇されることはないだろう。しかし、大尉の安寧はそう簡単に得られぬだろう」
「別世界に行くことができる可能性か」
「その通りだ。人間の欲というのは限度を知らない。夢ばかり見て己の分を弁えぬ傲慢な者達ばかりだ」
私も人の事を言えたものではないが、少なくとも自身とミソロギアに所属する者の命を賭ける覚悟をしている。しかし、政治家という愚物の集まりはその必要最低限の覚悟すらできていない者がほとんどだ。そして、そういう者達は夢を魅入ってしまうのか現実を蔑ろにする傾向が強い。
宇宙に変わるフロンティア、それを成し遂げたなら歴史に名を残すのだからわからなくはないが。
「それに今まで暗殺者を送られてきたことも1度や2度ではないと聞いた」
「暗殺者はジオン残党が送っていた者達だ……表向きは」
連邦の言い分を信じていないことがわかる苦笑いを浮かべる大尉。
随分と口が軽い暗殺者が多いな、とかそれほど頻繁に警備を突破できるなと不審点が多すぎるのだろう。
「その点、ミソロギアでは衣食住に不安を抱くことはないと保障しよう。ああ、唯一衣食に関していえば最高級は難しいので要注意だ。その代わりに娯楽や家電、趣味などは満足してもらえると思う」
衣は一般人の感覚ではブランド力が物を言うし、食に関しては飢えは心配はもちろん味に関しても問題はないが、高級や最上級などという料理は用意できない。そんなスキルを持つ者がいない……まぁ2人のファ・ユイリィが1番だということからも察して余りある現実だ。
逆に家電はオーダーメイド可能で個人の希望を叶え、娯楽に関しては知的財産権など無視した盗作、それらで統計を取り作り出したAIによる創作のエンタメが用意されているし、趣味に関しては用意できないものはない……と言いたいところだがミソロギアという狭い社会では多様性を重視するものは難しいだろう。絵画1つとっても評価されたいと言われたら難しいし、多数で行う競技やゲームなどは好みが偏るのでプレイ人口も比例するので少ないため支障が出ることになる。
話が逸れた。
「……」
迷いが手に取るようにわかる。
アムロ・レイという存在は、MSパイロットをしたくてしているわけではない。
それ以外の選択肢を連邦軍に潰され、しかし、ただただ腐って働かないよりは、世のためになればとパイロットをしている……だけではなく、未成年の時から続けてきた唯一人並み以上にできることであるのだが、概ね世のためである。
ニュータイプを危険視するオールドタイプの気持ちもわからなくはないし、分別がつきにくい数々のエースを撃破してきた未成年を放置するのも危険思想に被れられたり、ジオン残党に協力されたりされると危険なのはわかるが、なら脅威でなくす努力をすればいいものを。
「返事は9ヶ月後までは必要ない。ゆっくり考えるといい」
実験は私とスミレが主導、プルシリーズへの教導に関してはシミュレータや実機、座学に関してはパイロットスーツ着用(外との接触を前提にしているためバイザーは遮光されて見えない)すれば問題ない……いや、体型から年若い女であることがわかってしまうか。欺瞞用に男用パイロットスーツも用意しておいて損はないか。