第六百四十六話
大尉がシミュレータ相手に本気になっている。
いくらシャアのデータとはいえ、データに過ぎない。
そう思っていたようだが、私達はそれほど甘くない。
世界は違えどシャアと同じ組織にいた上に、アクシズが辺境にいた頃は同僚でもあり、被験者でもあったのだからデータは十分に存在する。戦場ではコンディションや戦況に左右されるが、こちらはAIである以上、戦場のシャア以上にシャアであると自信があり、実際大尉は苦戦している……が、まぁそれは共鳴が発生しないことが要因だろうな。
さすがにAIで気配を発するなどという機能はまだ再現できていない。というかそんなものでができたら私が1番煩わしいだろうから開発する予定は未定だ。
「ジュドー達の教導は任せておこう」
私の教育は人権を無視した上にプルシリーズに最適化されているため、通常の人間には効果がないとは言わないが非効率……ヘタをすればこの世界のカミーユ・ビダンのように廃人一歩手前のようなことになりかねない。
ハマーンとイリアは数少ない管理職であり、カミーユやファなどは叩き上げ、フォウやロザミアは強化人間の被検体であるため普通ではなく、唯一正規軍人であり部隊長経験者のシローは残念ながらニュータイプではないため、軍人としての教導はともかく、ニュータイプパイロットの教導は無理がある。私が加われば問題ないが、私はミソロギアで1番忙しいと自負しているし、世界征服に向けて準備中である。素人ニュータイプなんて手間暇が掛かるものに割く時間はない。プルシリーズも同じくフル稼働中なので暇はない。
というわけで仮にも大尉という尉官の最上位を頂いているのだから新米の教育もお手の物だろう。
「うーむ、サイコ・フレームの粒子運用は難しいか」
サイコ・フレームはMS内部ではなく、露出させることで発光現象を引き起こしやすくなることがわかった。あのバリアのような現象も能動的に起こすことが可能になりはしたが……まぁ案の定というか露出させることでセキュリティ的に甘くなるのでニュータイプ同士だと精神的に負けた場合自壊したり行動不能になったりしてしまう可能性が高いためあまり好みではない。
その特性が判明したことでミノフスキー粒子のようにサイコ・フレームを粒子状で散布することで何が起こるのか検証してみたのだが、色々と起こった。というか起こせた。
既知であるバリアや粒子そのものを意思によって移動ができ、粒子を集合させて分身、更に収束させて結晶化が可能であることがわかった。
分身に関しては質量も何も無く、ただのデコイとしてしか使えないが、感応能力に優れているニュータイプにはかなり厄介なものだ。
そして結晶化はかなりえげつないものである。
結晶は収束させただけにも関わらず強度が高く、粒子を敵に浴びせ、機体内で結晶化させて貫くなどという攻撃ができる。MSは……というよりも装甲を有する兵器は基本的に内部からの攻撃を想定されていないのだから当然の結果ではあるが、問題はこれ、下手をすると自分達が逆にやられることになるということだ。