第六百五十九話
「対空迎撃開始します」
オペレータのプルシリーズの声と連動してシルメリアが砲撃を開始する。
放たれるのは弾は榴弾の一種。
対空で榴弾など面白みのない選択肢だ。王道で行けばミノフスキー粒子濃度が低ければミサイルを用いた方が1発あたりの費用が高く付くが、追尾するため命中率が良く、結果的に対費用効果としては安く済む。
そうなると私が非効率な選択肢を取ったということは、それなりに理由があるのは想像できるだろう。
「榴弾解放確認」
榴弾は予定高度に到達すると自壊するが、明らかに敵機まで届いていない。それは計算や設計にミスがあったわけではなく、狙い通りだ。
「ファンネルミサイル全機投射確認、加速開始」
榴弾とは言っても自機の破片や爆発でダメージを与えるというものではなく、中に詰まっているのは爆薬ではなく、サイコミュによって誘導することが可能になったミサイル、ファンネルミサイルが積まれている。簡単に言ってしまえば榴弾とはファンネルミサイルを運ぶための手段に過ぎない。
ファンネルミサイルを直接運用せず、なぜこのような形にしたかには理由がいくつかある。
「速度重視にしたが――問題はなさそうだな」
まずファンネルミサイルの速度向上。
このファンネルミサイルはあくまで対空武装、しかも可変MSを対象としていない、純然たる航空機を対象としたもの、なぜそうなったか、それは可変MSや飛行能力を有するMSと航空機の機動力の差にある。
MSはどんな形に進化したとしても航空機に機動力で勝ることはない。MSと同じ技術を使えば余計なものが多過ぎるMSは負ける。
そして、MSが主力である私達の脅威となるのは同じMSではなく、航空機の可能性が高いと予想している。
しかし、航空機にも弱点が存在する。
私達が脅威と感じるまでの機動性、運動性を得るためには削るところは徹底的に削る必要がある。
つまり防御性能を犠牲にしていることを指している。
となると攻撃力を重視したものよりも速度を重視したもので弾幕を形成、更に追尾性能まで有するとなれば――
「命中率68%、期待値を若干上回る戦果と言えるでしょう」
プルシリーズは嬉しそうにしているが今回は敵にとって初見、こんなものだろう。
「さて、そろそろもう1つの仕掛けが発動させる頃か」