第六百六十話
「へっ、今更誘導兵器なんて驚きゃしねーよ!」
セイバーフィッシュに乗る彼は強い語気で吐き捨てる。
しかし、その言葉とは裏腹に冷や汗が止まらないでいた。
誘導兵器、そう言い表したが一般的な誘導兵器とは違うファンネルミサイルは敵を追尾するのではなく、先回りや追い込んだりしてくる兵器なんてものはなかった。いや、正確にはあったにはあったがミサイル同士がフォーメーションを組んだように動くようなものではなかった。
彼は正面から迫るファンネルミサイルを迎撃に機銃を連射してたまたま撃ち落とすことに成功しただけでほぼ運だけで生き残ったに過ぎない。互いに高速で近づいているというのに機銃でミサイルを狙って落とせるものはオールドタイプではそうはいない。
「ちっ、随分やられちまったな」
その被害の最たるは大型爆撃機故に運動性に難があるデブロック、大型ではない分だけ運動性は優れているが爆撃機であることには変わりなく、戦闘機に比べると機動力、運動性能は劣るフライマンタがファンネルミサイルの餌食となった。
シルメリア・砲戦フレームはどこからどう見ても地上用MS、もしくはMAにしか視えず、飛行能力がないと考えての航空戦力による対地攻撃を選択したのがその選択が仇となった。
普通に考えれば高高度を飛ぶデブロックやフライマンタを攻撃することは不可能、可能であったとしても命中率はお察しなので一方的に攻撃することでこちらの被害は抑えられ、敵に損害を与えられる……そんな幻を見ていた。
「だが札は割れた。次は対処できる」
そう自分を鼓舞するが、次弾がないことを切に願った。もう1度同じように切り抜けることができる確率は決して高くないとわかっているからだ。
「密集隊形で弾幕を張るべきか、それともまとまったところを狙われないように散開しておくべきか――何?!」
それが視界に入ったのは偶然だった。2度も偶然が重なれば実力と言えるかもしれない。
「くそ!!なんで後ろからミサイルが飛んでくるんだよ?!敵はまだ前にいるんだぞ!」
Gを軽減するためのパイロットスーツの中は汗でぐっしょりとなり、どこからの攻撃がわからず、しきりに周りを警戒して次がないかを探す。
伏兵がいるのかと思ったが、地上は目立った障害もない地形であるため視界良好で敵の姿は確認できず、空は同行しているデッシュから警告がないことから近くにいる敵がいるわけではない。
ならどこからミサイルが翔んできたのか。
それは――
「こちらも初見殺しのようなものだが、やはり効果があるな。この機雷モードは」
アレンは戦果に満足そうに頷きながら呟く。
ミサイルの正体は最初のファンネルミサイルに変わりない。しかし、今襲っているファンネルミサイルは内蔵されているミノフスキークラフトにより空中に留まり、任意のタイミングで再び発射することが可能となっている。地上の地雷、海や宇宙でいうところの機雷に相当するような役割を担うことができるのだ。
「ただミノフスキークラフトの小型化には随分とコストが掛かる上に起動時間も短いのでまだまだ改善点が多いがな」