第六百六十三話
「ふむ。思った以上に連邦は慎重だな。てっきり勢いで釣られて仕掛けて来るかと思ったが、動かなかったか」
勢いのまま攻めてくるようなら容易い相手だったのだが、どうやらカラバが主導権を握って方針転換したというよりもネオ・ジオンに敗北したことが影響しているようだ。
あの時の戦力に自信があったのはあの政治家だけではなく、連邦政府全体だった。それが敗北したことで軍への信頼が揺らいで疑心暗鬼に陥っているみたいだな。
まぁ私達との戦闘では連敗記録を塗り替え続けている以上は安易に攻めては来ないか。
「という状況だが、大尉はどうする。関わりたくないと言うならネオ・ジオン……は抵抗あるだろうがコロニーに届けてもいいし、大尉のデータと教導には満足しているので色を付けて当面の資金と隠れ家も提供してもいいが?」
「――本気だったのか、連邦に正面から喧嘩を売るなんて無謀な」
「無謀とは心外だな。私の見込みでは9割は勝つことができると出ている」
「地球連邦はそんな軟な組織じゃない」
「連邦の強度がどうのではなく、私達が優れている。ただそれだけなのだが、まぁそれは立証しなければ水掛け論にしかならないのでいい。どうしたいか結論は出たか」
共鳴すればわかるが、それは無粋というものだろう。
出ていくならそれでいいがこちら側からそうなる切っ掛けを提供する必要はない。
「……正直色々疑わしいことは多い。でも連邦軍は更に信用できない。今の自分が行ける場所などここ以外にないか」
「人生には妥協が大事だといういい例ができたな。内情を知り、嫌になったら時渡りを行う際にこの世界においていくので自力でどうにかするといい」
「時渡り……私達が体験したこの世界に来る時の現象か」
「とはいえ、10年はこの世界にとどまる予定ではあるがな」
「10年なんて気軽に言えるような時間ではなんだけどな」