第六十七話
量産型キュベレイを設計していたら何処で聞きつけたのか(おそらくプル達が喋った)キュベレイで採掘作業をするという計画に対してクレームが来た。
まぁ専用機だったものが量産された挙句に採掘用に使われれば文句も言いたくなるか。
しかし、整備費及び維持費の削減を盾に説得すると割と簡単に砕け……折れてくれた。貧乏ってそれだけで悪なのだ。
ただし、カラーリングを変えるよう厳命された。まぁカラーリングぐらいは変えるさ。
ハマーンとプルシリーズが混ざると他の者達が困るだろうからな。私は感じればわかるので困らないが。
「というわけで宇宙の迷彩カラー黒で対光学ステルス塗料を開発しようと思う」
「……まぁアレン博士の手広さは今更ですし、対光学というのはミノフスキー粒子下では確かに有効な手段ですけど……それって味方まで見えなくなりませんか?」
……。
「……ファ、ファンネルを攻めの主体とするなら敵に近寄ることもない。それにプルシリーズ同士ならお互いの位置ぐらい察知することが可能だ」
「プル達はわかるからと言って他の兵士達にはわからなければ同士討ち……誤射は防げませんよ?ニュータイプは殺意に敏感ですけど、味方の敵に対する殺意まで感じるほど余裕はないでしょうし……艦砲射撃に巻き込まれる可能性もあります」
……はぁ、仕方ない。特務向けの機体用だけに絞るとするか、他の機体は耐ビームコーティングで我慢しよう。
「……さすがに耐ビームコーティングを開発するとは言わないんですね?」
「そんな汎用性が高い技術は地球連邦やティターンズ、アナハイムに任せておけばいい」
どうせアクシズがもし地球圏へ侵攻することがあるとすれば、今わかる範囲では地球連邦(実質ティターンズ)と反地球連邦の武力衝突が起こった時の隙を突く形になるだろう。
そうすれば反地球連邦の有力な後ろ盾であろうアナハイムからと戦場の跡から入手可能だろう。
……兵器開発部も日夜開発しているらしいが、こういうひらめきよりもデータの堆積による開発は国力が低いアクシズでは無理があるので早々に諦めるべきだと思うのだが。
「あ、そういえば話は変わりますけどナタリーさん、無事女の子を出産したそうですよ」
「……ああ、なるほど、だから最近ハマーンが来る頻度が落ちていたのか」
ちなみに赤子の性別は既に知っていた……というより既に会話らしきものも交わしている。
普通の胎児では経験がなかったが、培養槽の中の時のプルシリーズ達とはいくらか意思を交わしていたのでもしやと思って試してみたのだが、それは成功だった。
まぁナタリー中尉やシャアにバレればどんな目に遭うかわからないので喋るつもりはない。
こっそりニュータイプの能力を伸ばすようにトレーニングをしているのも秘密である。
それにしてもシャアも一児の父親か……単身(?)赴任中だがな。
通信でやり取りぐらい……いや、あの微妙にお硬いシャアのことだから仕事以外で通信しているとは思えないな。
アクシズ的には当然だが、人間としてはどうなんだろうな。
「仕方ない。私が父親代わりに——」
「絶対止めてください」
プルシリーズの良い点はニュータイプの量産にあるのはもちろんだが、実はもう1つ利点がある。
それは……言葉で言い表しにくいが強いていうならニュータイプが放つ思念の形、色が類似しているという点だ。
これが何を示すかというと、サイコミュというのは思念……科学的に言うと脳波だが……は個々に違い、調整をする必要がある。
私ぐらいの才能の持ち主ならどうとでもなるが(自分でもなぜかはわからない)ハマーンやプルシリーズでは調整せずに使うとなると反動が大きく、そう経たないうちに良くて二日酔い、悪くて高熱のインフルエンザのような支障が出る。
もっとも二日酔いも年齢的になく、インフルエンザには1度も患ったことがないのでわからないが。
この調整はデータ取りしているパイロットですらサイコミュのプログラムの上書きで相当時間を食うため実戦投入するにはかなりの弊害となるが、データ取りをしていないパイロットとなると脳波の重なりが多いことを祈ることしかできない。
つまり、サイコミュは本来兵器としては不合格ラインギリギリなのだ。
それをプルシリーズというソフト面で解決することができた。
だからこそ、キュベレイの量産型を作ろうと踏み切ったのだが、そんなところへハマーンから——
「オールドタイプでも使えるサイコミュ兵器は作れないのだろうか」
——という素朴な質問が飛んできた。
「ふむ、あまり考えたことがなかったな。サイコミュの鋭敏化と簡略化をすればある程度は可能になるだろうが……」
「ならばそれを使わぬ手は——」
「しかし、ニュータイプが使うそれとは違って完全な自動化(手を使わないという意味)というのはおそらく不可能だ。せいぜいが半自動化までが限度だろう」
それにいい加減連邦と違ってジオン系のMSというのは操作が複雑であるのに更にサイコミュ兵器を操るとなると熟練以上のパイロットの腕が必要になるだろう。
そうなれば結局のところニュータイプを採用するのとあまり変わらないことになるだろう。
更にそこまでしてニュータイプが使うサイコミュ兵器とは違い、パターン化された動きを行う程度しかできないはずだ。
最初のうちは通じるかもしれないが相手も使い始めれば結局は無駄な投資となる……いや、相手の方が国力が上なのだから不利になる要因しか思い浮かばない。
「なるほど、その点ニュータイプは話題にこそなっているが大国だからこそオカルトのような存在を容認、起用することは少ないというわけか」
その通りだ。
そもそもニュータイプ研究などというのは一朝一夕で飛躍するものではないし、汎用が効く存在でもない上に、相手の心を読み取るエスパーとも言えるような能力を持つ人間を新しくて柔軟性がある程度あるはずのアクシズですら煙たがられる、胡散臭気に見られるのに連邦やティターンズのようなガッチガチの組織が認められるはずがない。
それにそもそも人海戦術を旨とする連邦がそのような戦術を……あ、そういえばティターンズは組織的にはアクシズより若いか?それに最近連邦軍を飲み込みつつあるようだがそれでもまだ連邦内の一組織でしかないし、人海戦術どころか少数精鋭(それでもアクシズより規模的に大きいが)だったな。
「もしかするとアクシズにとってティターンズの方が厄介な相手かもしれないな」