第六百八十九話
「なんということだ。我々は何を相手にさせられているというのだ」
戦況はいい悪いという次元ではない。
局所的大域的などという言葉でも甘い。
戦術戦略なんて知的なものでもない。
敵はただの1機も落とすこともできないどころか満足にダメージすら与えられず、味方は既に200を超える被害を被っている。
この段階で戦略的な話としては例え奇跡的に無傷で残りの敵を消滅させたとしても惨敗としか言えないような被害である。
「軍が――溶ける」
モニターに映る戦況図は戦場を敵味方を色で識別しているが、味方の色が失われていく光景は塊が溶けていくように見える。
司令部としては何か指示を出して改善を図らないとならないのだが――
「奇襲が失敗したとはいえ――正面から戦い、数で勝っているのにこのような状況――どうしたらいいのだ」
敵が奇策を用いて混乱して崩れた、ビグ・ザムやノイエ・ジールのような決戦兵器を投入されて戦況が悪化したなど盤面の変化によって生まれた不利なら対応する余地がある。
しかし、最初こそ奇策……なぜか少数が突出させるという謎の行動が見られたが、現状は後続というより本隊と本格的な戦闘が始まっただけである。その結果が一方的な蹂躙とも言える惨状が映し出されているに過ぎない。
一応、このような戦況も想定された対応、戦術は用意されている。いるのだが問題は結局のところ数に物を言わせて防衛網を突破して艦隊を沈め、降伏させるというものだ。そう、日頃効率を重視しているミソロギアの取る戦術である。
だが、問題はそもそも連邦宇宙軍が想定していた敵というのはキュベレイ・ストラティオティスではなく、レナスであり、そのレナス対策として数で押す潰す予定だったのだ。だが、その肝心のレナスは前線に出てきてはおらず艦隊の護衛についている。
つまり、連邦宇宙軍の作戦は崩壊していた。それに加え――
「この状況で戦力を分散なんてできるわけもない」
凄まじい勢いで自軍が減っていっているが、それでもこの程度で収まっているのは数の強みで弾幕を張り、キュベレイ・ストラティオティスは無理でもファンネルを落として被害を軽減している――既に軍の半分を失っていたとしても。
既に負けは確定したも同然であるが連邦宇宙軍の取れる選択は3つ。
徹底抗戦か、降伏か、逃げるか、である。