第六十九話
キュベレイmk-IIの完成でサイコミュやファンネル、プル達の使用のデータなどが効率よく収集することができるだろう。
唯一私達が保有しているサイコミュ兵器(有線式はアレン的にはサイコミュ兵器とカウントしない)であるアッティス(アレン専用採掘船)を使ってデータ収集しようとはしたんだが……プル達が断固として拒否されてしまった。
なぜかと思って調べてみるとアッティスのサイコミュは妙な科学反応を起こして通常のニュータイプが使うことができないような代物になっているようなのだ。
連結させたのが悪かったのだろうか?私が予期しない挙動が発生している……まぁ私自身が使うには問題ないからいいのだが。
どうやらこの予期しない挙動をプル達は本能的に察したようだ。
せっかくの作品を灰(廃)にすることがなくて助かった。プル達の生存本能さまさまだ。
しかし……サイコミュはどうも科学というよりオカルトという区分になりそうな勢いだな。いくらか解明することができても次々と不明な部分が増えていく。
まぁ実は自分のニュータイプ能力が1番の謎だったりするのだが。
それはともかく、キュベレイmk-IIだ。
実は既に3機用意している。
量産型なので量産するのには難しくない……が安くもないMSを3機同時に製造したのは理由がある。
比較的近い時期に誕生したプル、プルツー、プル3を贔屓しないためだ。
初期型であるこの3人は感情がよく育ってきている。育ってきているばかりに嫉妬などの諍いは少なくなるように努力をしている。
身体や身体能力だけは一人前以上に成長しているが道徳というものは未だに学びきれていない……いや、普通の人間でも学びきれるなんて言えないし、私も外道の類ではあるから人の事が言える立場ではないのだが……何にしろ、マナーや最低限のルールというものが学べていないのだ。
それ故に他人への嫉妬ならともかく、姉妹への嫉妬はどのような影響を与えるのかは未知数。
下手をすると殺し合いを始めるなんてこともありえなくもない。
作品同士の殺し合いなんて研究が行き詰まってデータ収集の準備を万端にしてから行って欲しいものだ。そんな勝手をされてはたまらない。
というわけでキュベレイmk-IIを3機用意したのだ。
「プル達の教育方針として年功序列主義にするか能力主義にするか悩むところだな」
研究者としては能力主義がわかりやすくていいのだが、感情が育ちきっていないプル達では能力主義では虐め……はニュータイプ能力の強化に繋がるか……んー……しかし、能力主義は統率が難しくなるのが難点だな。
私達は軍に所属こそしていないが戦争となれば真っ先に徴兵されることは間違いない。
その時に使いやすいのは私が苦手としている年功序列で上意下達、所謂体育会系というやつだな。
そういう意味ではジオンの敗因は国力の差ももちろんだが、軍としての秩序の欠落にあるような気もする。そんなに余裕がないのに兄弟で利権争いなんて無謀なこと、よくできたな……もしかしてギレンって思った以上に求心力がなかったのだろうか。
それはともかく——
「やはりクローンとはいえ、個体差が生まれるのは仕方ないことか」
キュベレイmk-IIによる初めてのプル、プルツー、プル3に合わせたサイコミュによるファンネルのテストの結果はプルが19基、プルツーが15基、プル3が11基のファンネルを同時操作が可能であった。
これだけで見るとプルが1番能力が高いように見えるが、ファンネル同士の模擬戦を行うと順位が入れ替わり、プル3、プルツー、プルとなる。
そしてMS本体も戦闘に加わるとプルツー、プル、プル3となる。
平均能力で考えるとプルツーが1つ飛び抜け、プルとプル3は互角と言ったところか。
プルは精神面に甘さがあり、ファンネルの同時操作の数こそ多いが操作が雑、プル3は精神面では揺らぎが少なく、同時操作の数こそ少ないが操作に優れ、プルツーはファンネルに関しては2人の間でMSの操縦技術が最も優れている。
これはキュベレイmk-IIの初機動の初模擬戦であるからこれからもっと改善されていくだろう。
成長が楽しみだ。
今日はハマーンに誘われてある場所に来ている。
それは……温泉だ。
アクシズに天然の温泉が存在……するわけがない。
ただし、『温』泉はないが、温泉成分が含まれた水はあるため除菌して太陽光で温めた温泉もどきがある。
ハマーンがたまにはリフレッシュすべきだと言って連れてこられたわけだが……当然混浴ということもなく、ここにいるのは私のみだ。
リフレッシュにはいいが、貸切状態の広い露天風呂(アクシズ内だから露天と言えるかは疑問だが)というのは何とも居心地が悪い。
ちなみに貸切状態というのは他に訪れる客が居ないという意味ではなく、その言葉のままハマーンが権力を使って貸し切っている。
こんなことに権力は使うものではないと言ったんだが既に強権が振るわれた後だったので軽い説教だけで済ませた。
「適度に運動しているつもりだが思った以上に凝りが酷いな」
運動が苦手な私でも健康管理はきっちりしている。
研究者や開発者は優秀であればあるほど自身の健康に無頓着な傾向が強い。
しかし、優秀な研究、開発者こそ凡人などより長く生きなければいけないのだから自身の健康を疎かにすることは愚者の考えだと私は思う。
「ハァ……しかし、剣や弓で争っていたような時代から続く癒やしは発展した現代でも変わらず癒やしとなるというのはなかなか感慨深いものだな」
今度は個人的に来てみるかな。
確かにいい気分転換になる。
……ん?誰か入って来た……って——
「ハマーン、なぜここに?」
「……もう少しリアクションがあってもいいと思うのだが」
「…………フッ」
「今どこを見て笑ったか聞かせてもらおうか」
おっと、何やらどす黒いオーラが?!
「何を勘違いしているかは知らないが——」
「ハマーンずるーい!私もアレンパパと入る!!」
「ちょっと待て、引っ張るな」
「……お邪魔します」
おっと、プル達もか。
「うむ、いい感じだ」
「アレン?プル達を見てなぜ反応する!私の方が——」
「ハマーン、最近筋トレをサボっているな?筋肉が落ちているぞ」
「………………——————ッ!!」
「ぐふっ」
風呂桶が顔面に直撃した。
照れ隠しで物を投げてはいかんぞ。
そもそも羞恥心的に言うと男風呂に乱入する方が恥ずかしいだろ。