第七十話
「それで、なぜこのような行動を取った。まさか私を籠絡しに来たわけではないだろう?」
「……アレン、貴様は自身がどれだけ厄介な存在か知っているか」
また突然だな。
「さて、どうだろうな。私自身が思っていることと他人が思っていることには随分隔たりがあることは自覚があるから正しく理解しているとは言えないかもしれないな」
「ならば教えよう。金も名声も地位も求めない無欲にしてただただ研究に没頭する強欲な存在……
本来なら資金や物資を盾に首輪を付けるのが一般的だ」
改めて言われなくても、それをハマーンに教えたのは私だから知っている。釈迦に説法過ぎるだろう。
「ならばアレンはどうだ。組織への依存は最小限……いや、どちらかと言うと組織が依存してしまっているのが現状だ」
まぁ正直、最近はアクシズから出ていってもどうにか生きていけそうな気がしないでもない。
資源採掘を開始して更に依存度が下がった私がアクシズに頼っているのは空気と食料ぐらいだからな。
「であるならば、組織側が取り込もうと動くのは自然なことだと思うが?今回、明確な功績として量産型MSとニュータイプ専用量産型MSを開発したのだからな」
「それで色仕掛け、と?」
「まぁ、試したことがなかったのだから1度は試してみるべきだと判断したまでだ。結果は散々だったがな」
むしろ私が襲ったらどうする気だった——ああ、もしかしてだから風呂なのか?私は日頃からエロ触手を常時着用しているが、さすがに風呂場にまで着けてはいない。
そうなると素の身体能力ではハマーンに勝てない(確定事項)のだから色仕掛けが効くとわかればハマーンは襲った私を撃退し、その後改めて色仕掛け要員で引っ掛ける……といったところだろうか。
(これで多少の反応を見せてくれれば攻略の糸口が見つかると思ったんだけど……まさか嘲笑われるとは思わなかったorz)
「忠告しておくがこのようなことはあまりしない方がいい。スキャンダルはいつの時代も愚衆の大好物だからな」
(噂では既に愛人やヒモということになっているのだが……しかも最新の噂ではナタリーの子供が実はアレンの子供だとか研究所という名のハーレムを築いているなど好き放題なことを言われているのだが……この様子だと知らない……のか?アレンは他人のことなんてほとんど気にしないやつだからわからんな)
「ほら、お湯掛けるから目を閉じろ」
髪を洗い終わり、プルに流すぞと声をかける。
「んー」
目を閉じた気配を感じたのでお湯で何度か濯ぐ。
トリートメントやリンスなどは後が気持ち悪くなるからいらないそうだ。
それを聞いたハマーンは老いてから後悔するがいい、と言っていた。まぁ老化現象程度、将来の私に掛かればほとんど解消できるだろうがな。
「よし、後は自分で洗えるな?」
「えー、アレンパパに洗って欲しい!」
「自分で洗えるな?」
「ぶー、わかった」
「ほれ、次はプルツーだ」
「あ、ああ、頼む」
いつも冷徹にして猛々しいプルツーが今は借りてきた猫のように大人しい。性教育、羞恥心の芽生えばプルよりも進んでいるようだな。
身体を隠すようにタオルを巻いているのが微笑ましい……ちなみにプルと他のプルシリーズは余裕の全裸、プル3はなぜか腰巻きだ。
ハマーンもプルツー同様タオルを巻いている……が、この感覚から察するにタオルの下に水着を来ているようだ。
おそらく大胆な悪戯兼色仕掛けを計画をしたのはいいが途中で冷静になって恥ずかしくなったが段取りは既に終わっていて引き返せなくなってどうしようか悩んだ末の対策なのだろうが……恥ずかしがるぐらいなら最初からしなければいいものを。
プルツーの髪を洗ってやり、その後、何かするかと聞いてみるとトリートメントを頼まれたのでやってやる。
「……さて、話しにくい内容の前フリは終わったか?」
「ハァ……アレンには敵わないな。実は私が戦場に立つ可能性を考慮して親衛隊でMS部隊を編成することとなったのだ」
ほう、今までの親衛隊は生身の護衛兼内部調査官という役割だったがMS部隊にまで拡充するのか。
確かにキュベレイという専用機(かは今となっては怪しい)まで用意したのだから当然戦場に出る気でいるだろう。
となると話というのはだいたい推測ができるというもので——
「つまり親衛隊のMS部隊の開発か」
「それもあるが本命は……プル達を貸し出してくれないだろうか」
なるほど、そちらが本命か。
……しかし、プルシリーズを、か。
プルシリーズはその能力が高いのは今更言う必要はないだろうが、実はもう1つ使い勝手がいい理由がある。
それは教育次第で……いや、教育前から子供同然に純粋であるため、裏切る可能性が少ない。
親衛隊もニュータイプ能力をフルに活かして厳選した兵士のみで編成しているが、それも100%ではないし、後から内通者(敵意、自覚の有無は別だが)が出ないとは限らない。
そしてMS隊ともなれば信頼できる者に任せたいと思うのが普通だろう。
……まぁ、ハマーンが若干どころではない人間不信をうちに秘めているのだから尚の事だろう。
「……その人間不信にした本人が何を言っている」
「残念ながら私は将来を見据えてニュータイプ訓練を兼ねた対策を取ったに過ぎない。そもそも提督の娘という段階で既に下地はできていた」
フンッ、と面白くなさそうに鼻を鳴らす。
ハマーン自身もわかった上で言っていることなのでこれ以上は話すまい。
「さて、話を戻すとして……プル達を派遣することに問題はない。今までも護衛訓練させてもらっていたしな」
ハマーンやミネルバが女性であるため、男子禁制である区域が存在する。
そういうところでプル達の教育の一環としてハマーンやミネルバの護衛任務を行っていた。
本来ならそんな重要な役職に私達が食い込むことはできないのだが……ジオン公国から続く独裁主義の賜物だな。
それはともかく、その護衛任務の延長線と考えれば難しい問題ではない。
「それはキュベレイmk-IIを含んでの話か?」
「いや、そちらは必要ない。正直に言うとキュベレイ隊というのも強く惹かれるものがあるが、これ以上アレンを贔屓していると後ろから刺されかねん」
「それほどか?」
「アレンがそのようなことを気にしないのは知っていたが、護身のためにある程度情報収集をすることを勧める」
どうやらそれほどのことらしい。
まぁ、確かに一介の民間人がこれほど優遇されていては悪いように受け取られることが多いだろう。
人間の嫉妬とは醜いものだな。しかし、天才である私に嫉妬する気持ちもわからなくはない。
「護身と言ってもプル達に触手があり、市場をほとんど利用しない私に経済的圧力を掛けようとしても難しいだろうがな」
資源はハマーン経由で買い取ってもらったり、食料や日用品などはいつもお世話になっているお姉さん方に卸してもらっている。
これらのおかげで面倒な営業などしなくてもいい環境が構成され、研究に専念できているのだ。
しかし、忠告は聞いてもう少し情報収集にも力を入れてみるか……研究時間が潰れるから却下だな。
「諦めるのが早すぎる」
「うちには労働力はあるが、そういう経験を積んだ人間はいない以上仕方ないのだよ」
まともに動けるのは私とスミレしかいないのだからな。
「とりあえず、プル達を貸し出すには条件がある」
「……伺おう」
「とは言っても大したことではない。プル達の身元と容姿の隠蔽すること、誰かを固定するのではなく定期的に交代させることだ。理由はわかるな」
「もちろんだ」
こうして私の貴重な労働力が失われることとなった。
……プルシリーズを増やすかな?
「……さて、ハマーンも座れ。髪を洗ってやる」
「わ、私は遠慮して——」
「遠慮するな」
「ちょっ?!どこから触手がっ——」