第六百九十六話
白い悪魔を含む6機の敵の内2機は落とせたが、明らかに私達の方が被害が大きく、局所的ではあるが連邦は初めて私達に対して勝利と言える結果を手にした。
この勝利を連邦は世界全土にこの勝利を喧伝、情弱で無能な者達は安堵し、ある程度事情を知っている者達は倒せない相手ではないのだと希望を抱き、情報通な者達は一年戦争の英雄であるアムロ・レイを投入してようやく得た勝利がこの程度かと落胆している。
ちなみに私達も世界放送で戦闘の映像こそ流さないが、24時間以内に行われた戦闘地域や双方の被害や死者数など事細かに発信している。
なぜこんなことをしているかというと連邦市民に戦時中であり、当事者意識を持たせて精神的圧力を掛け続けることでニュータイプを増やせないかの実験であると同時に下手を打てば全世界に恥を晒すというプルシリーズに対しての戒めでもある。
実際今回のレナスの損害、17機を偽りなく発信した。
レナスの操縦を担当していたプル達は恥ずかしくて部屋に籠もった……が、引き籠もれば引き籠もるほど恥の上塗りだと自分で気づき、当日中に出てきて代わりにシミュレータに引き籠もったので教育的指導は大目に見ておく。
「もっとも白い悪魔を遠隔操作で倒せるとは思っていないが」
レナスで倒せるとすれば数の暴力で消耗戦を仕掛けた時ぐらいだろう。現実的には逃げられるのがオチだ。宇宙なら母艦を落としてしまえば距離という檻で隔離できるが、地上だと危機的状況に陥れば援軍がすぐにやってくるか逃げ切られることになるだろう。
いくら連邦がニュータイプを気に入らなくとも私達相手に戦果を上げているのはアムロ・レイ以外にいないのだから酷使されることはあっても使い捨てる気はしばらくないようだ。
実際今回の勝利をたたき台として戦術――というにはあまりにも個人の技量に頼りすぎているが――を構築する計画が進められている。
とはいえ、連邦もそれだけに頼るほど無能でもなかった。
「戦って勝てないなら戦わなければいい、か。確かにその通りだ」
原点回帰、いや、先祖返りとでも言うべきか。連邦が採った策は至ってシンプルなもので――
「徹底したタンク系による長距離砲撃とは、な」
タンク系のキャノン砲は射程200kmを超え、その精度はさすが歴史を重ねてきたものなだけあり、私の開発した砲撃フレームよりも精確だ。
私達の基地はすでに位置は把握されているため、大気圏を占拠しているので人工衛星による観測などはできないが、それでもそれなりの精度で砲撃が四方八方から行われた。いや、今も行われている。
物量に任せての砲撃。
基地を更地どころかクレーターを量産するような勢いの威力とありきたりだが雨のように砲弾が降り注ぐ。
「大国らしい力を魅せてくる」
四六時中砲弾を降らし、レナスが迎撃に出れば素早く撤退。もちろん無傷では帰すばかりではないが、それでもMS同士の戦いから比べたら連邦の被害は少なく、そして確実に私達を消耗させている。
「砲弾は防げているが推進剤の消耗が激しいな」
砲撃による損害は撃ち落とすことでほとんどないが推進剤だけは減少傾向だ。
やはり推進剤の代替品が必要か、ミノフスキー推進は未だにMSに搭載できるサイズに小型化できていない。厳密に言えば小型化できるが必要な推進を得るためにはサイコミュを高レベルに使いこなさなければならない上にその出力は操縦者の精神に依存してしまうことから何が起こるかわからない戦場では扱いが難しいため見送っている。それにレナスに搭載するには量産性が悪すぎる。