第六百九十八話
ここは戦場から離れてはいるが、戦場には違いなかった。
「あ~、1落ち、次の機体は、っと」
「もぉ!!いくら遠隔操作って言ったってこんなに当たらないなんておかしいって?!こんな短時間で3落ち……ってか私狙われてる?」
「貴女の経験が浅いのを見抜いてそうね。頑張りなさい。でもあの相手に感情的になってはダメ。読まれてしまうわ」
プルシリーズが漂うカプセルが並び、そこに設置されているスピーカーから声を発しながら会話をしている。
「さすが上位ナンバー……そういえば撃墜された数が少ないですね。それがコツですか?」
「私の経験上、対ニュータイプ戦に有効な立ち回りは2通り、相手が同等以下なら感情を露出させて圧力を掛ければ有利になるわ。でもそれは相手が格上だったら逆効果で、こちらの意図が読まれる」
「確かに教本にはそう載ってたけど、そんなにわかるもんなの?」
遠隔操作を担当する下位ナンバーは下位ナンバーの中ではエリート扱いとされている。
なぜなら早くから実戦を経験し、功績を立てられるからだ。
しかし、アレンとしては評価は下位ナンバーは下位ナンバーとしか評価しない。それはたまたま遠隔操作に向く能力だったからに過ぎず、遠隔操作に向くニュータイプはMSパイロットとしての感覚に劣ることが多いからだ。
実際彼女は同年の姉妹の中でMDの遠隔操作の適性は高いからこの場にいるが、MS操縦技術は下から数えた方が早い。
そうであるから彼女には優秀なパイロット型ニュータイプが持つ戦闘センスに関して理解が及ばない部分が多くあった。
「ええ……もっともあの白い悪魔さんはちょっと尋常ではないですけど。あれでアレン父様の調整を受けていないと言うのだから信じられないわ。以前までのレナスならともかく高機動化された今のレナスに捨てたライフルを有線操作で撃って来るなんて意味がわかりませんね。しかも直撃コースですし」
「大尉さんも使ってたけど、あれって宇宙限定じゃなかったんだ……そもそもあれは模擬戦だからと思ってたけど、まさか実戦でやるなんて」
「その点は同意ね。てっきり遊びの範疇かと思っていたのだけど」
生まれる前からニュータイプであることが約束され、生まれてからは英才教育が施され、更には肉体改造を受けて常人では考えられないスペックを有するプルシリーズからしてもアムロ・レイ達の技量はおかしいレベルだった。
「あ、配置完了したみたい」
「そう……さて、でも今回はスマートにはいかないわよ。白い悪魔さん」
「アレンパパがいつまでも同じことを繰り返すなんて思わないでよね」