第六百九十九話
現在の主戦場は高度50km~80kmの中間圏を舞台として繰り広げられていた。
戦況は全体で見ればHLVを護りながらもミソロギア優勢、本当に局所的に連邦、というよりも白い悪魔が奮戦して善戦。
いくらアムロ・レイが強いとはいえ、包囲され避けることも不可能な弾幕を形成されれば終わってしまう。それを防ぐためにそれなりの数で戦力を分散させて、簡単に言えば囮を用意して凌いでいる。
その戦場から1800km離れた低軌道に3機のレナスが出番を待ち望んでいた。
通常のレナスとは違い、ウィング部分が片翼で本体の全長と同じほど大きく、そしてその全てがサイコフレームで作られ、蒼白く光を放ち、ヴァルキリーの名を冠するだけの神々しさがそこにあった。
そしてその手に持つのはその大きくなウィングを両方合わせてもなお大きい、槍の様相ではあるが明らかにそれではない。
「サイコミュ・リンク、予測システム、両システムリンク完了。サイコスキャン開始」
レナス3機のウィングから発する蒼白い光が瞬く間に広がる。離れた戦場までも覆い尽くす。
「なんだこの光は、それに気持ち悪い感覚は……嫌な気配だ」
アムロ・レイだけではなく、オールドタイプでしかない他の連邦パイロット達もアムロ・レイほどではないにしても同じように感じ取り、そして――
「「「その身に刻むがいい。解放――ニーベルン・ヴァレスティ」」」
言葉とともに光り輝く翼は更に輝き、そして次の瞬間、手に持つ槍、ニーベルン、ヴァレスティへと収束され――解き放たれる。
三条のメガ粒子は今までにない出力、収束率であった。
「――チィーッ」
察しが良すぎるアムロ・レイは放たれる直前に殺気を感じ取り、機体の負担、己の負担を考えずに出せる機動力を出し尽くして回避行動を取る。
一切余裕のない無様な回避だったが、それは実り、余波で装甲が溶ける程度で済んだ。
それは未来予測システムにより回避行動先まで予測して放たれたものだったので無理しての回避行動しか許されなかった。
ただし、アムロ・レイは無事であったが――
「味方が――」
ニュータイプによる未来視と未来予測システム、レナスのウィングに内蔵されているサイコスキャン(思念波を飛ばし、人間に当たると生体データと位置情報が手に入る)とサイココンバージェンス(サイコフィールドでメガ粒子を包むことが可能になる)によりメガ粒子の拡散を防ぐ。これよって長射程、高出力を実現したそれはアムロ・レイを正確な位置を射抜いた。
「テメェがこの程度でやられるなんざ思っちゃいねぇんだよ」
そう、アムロ・レイをこの程度の攻撃では落とせないことはプルシリーズも学習しており、本命は囮役ではなく、アムロ・レイが率いるMS部隊だった。
最初はそこそこ腕の良い者達が集まっていた烏合の衆だったがアムロ・レイの教導によって連携が取れるようになるとアムロ・レイの存在と相まって厄介な存在となった。
アムロ・レイの手足、というにはまだまだの存在だが、アレン達にとって目障りだった。だから今回はそちらを削ることを念頭に置いていた。
「だが2機落としただけじゃぁ自慢になんねぇな」
被害がなかったアムロ・レイ部隊を2機落とした。地上に降りてきてからアムロ・レイの部隊の初の被害である。プルシリーズ相手に奮闘していると言えるのだが、これが普通の敵だったなら新兵器など投入する必要などないし、本来ならあの程度の数に押されるというのは納得できるわけがない。