第七百二話
地球連邦は戦時特需という好景気が到来していた。
しかもこの戦争は特殊なもので、地域が占拠されれば住民がごっそり失われる反面、戦闘での死亡率は一地方の一日の死亡者よりも少ないのだ。それに加え、捕虜解放取引の窓口は常に開かれ、帰還している。
一般市民の人口は減っても戦闘に駆り出される兵士はほぼ減らず、戦線に負担は少なかった。
それに反発するかのように兵器の損耗率は鬼のように上昇し、ミサイルの中でも高い巡航ミサイルや大陸間弾道ミサイルを通常ミサイルのような勢いで打ち続けている。
一年戦争の頃はジオン公国に占拠されている時でも民間人がいるため無差別攻撃になりかねず、使用に躊躇されたが、本当に民間人は誰もいない。いたとしても相手が悪いということで遠慮気兼ねなくガンガン撃ち込んでいる。
それでも被害らしい被害はMSの被害ぐらいしかなく、敵基地への着弾は至近弾すら一発もない。しかし、そのMSへ損害を与えるのに同様にMSで対抗するよりも対費用効果が良い。
そして捕虜の解放には資源が多く要求されるが、その資源も好景気の後押しとなっている。
なんとも歪な好景気であるが好景気には違いない。
しかし、好景気であっても不景気な人間達がいた。
それは戦って敗北を繰り返すMSパイロット達である。
「くそ、こんなのどうしろってんだ」
捕虜となり、拷問どころか尋問すらされることはなく、美味くも不味くもない食事に衛生のためにシャワー、運動不足にならないように適度な運動と部屋が狭いことと食事が微妙なことが欠点だったが比較的快適な捕虜生活を送り、そう時を経たずして解放、むしろ解放されてからの尋問の方が辛いまであった。
そしてそれからも解放されると今度は経験者として敵MS(レナス)対策のレポート提出が課せられた。
しかし、大体のパイロット達はこの言葉に尽きた。
参考資料に白い悪魔の戦闘データを提供されたが――
「どっちも意味わからん」
と、こちらも同じような言葉しか出てこなかった。
ならばと対戦経験があるのだからと再び戦線へ……白い悪魔ことアムロ・レイの削られた随伴機の埋め合わせとして投入されることが決定した。
帰ってきてから負け犬扱いされて低かった士気はさらなる低空飛行を、墜落しないか心配するほどの高度を飛ぶことになった。
「なあ、俺達ってあっちにいる方が幸せなんじゃね?」
「それは……言えてるな」
強制移住コロニー内部は世界に向けて生配信がされている。社会構成が1から作られていることも、たまたま撮られた事件事故も何もかも。
そして捕虜となった者達は観光(?)の一環としても一通り見てきたそれは少なくとも視界に入る範囲では嘘偽りはなかった。
それに――
「あれはあれで楽しそうではあったよな」
「ほんそれ」
築き上げられた社会構造、文化、自分達のあり方。
不満がないと言ったら嘘になる。
何をするにしても金が掛かり、既に血に汚れた自分達は、周りから国や市民を守る誇りある存在と煽てられるが、実際は薄汚れた肉壁程度にしか思っていないことが透けて見える。
あそこなら気にしなくてもいいように思えた。
「……マジで抜けるか」
「でも家族がなぁ……それにさ、さすがに捕まって抜けるのと裏切って抜けるのじゃあっちの反応も変わりそうじゃないか」
「それもそうか、なら真面目に戦って、潔く負けるか。奴らと戦って死ぬ確率は今のところ飛行機事故より低いようだし」
「白い悪魔と一緒にいることだけが不安材料だな……後ろから撃たれないよな。なんかエスパー地味た戦い方してるから怖いな」
「さすがにそれは……ないと祈ろう」