第七百三話
「そんな貴方達にミソロギアからの可愛い使者が参上!!」
「「「……ハ?」」」
突然扉を蹴破って現れたのはフェイスをミラーシールドで隠したパイロットスーツを着た見るから体型から少女と丸わかりの侵入者に一同唖然。
そもそもいつの時代の登場台詞なのか、それはツッコまない。
「ミソ、ロギア?」
「それって今俺達が戦っている相手だよな」
「まさか、虚言だろ。こんな乳離もできてないよう――」
言い終える前に姿が消えた。
その現象の大元はパイロットスーツの少女――プルシリーズである。
真っ直ぐ突き出された脚部は幼いながらしっかりした筋肉を纏うそれは鍛え抜かれた戦士のそれである。
「誰も掴めないような乳しかないなんてヒドい!!」
((いや、そんなこと言ってない))
とは思ったが誰も口にしなかった。
なにせプルシリーズの動きを全く予見できず、男が吹き飛んだことで事態の把握ができたぐらい何も見えていなかったのだ。
まぁアレンの手によって人間の範疇から逸脱した身体能力を持つプルシリーズであるから仕方ない。
「さて、そこの無礼者――あ、ヤバ、綺麗に入りすぎて内臓がパンッしてる。とりあえず応急処置。全くオールドタイプは打たれ弱くて困る」
プルシリーズは慣れた手つきで蹴りがヒットした鳩尾あたりに素早く注射を突き刺して怪しい紫色の液体を注入する。
見事に足形に凹んでいた部位は膨らみ、外からではわからないが破裂していた内臓も修復させる。
「気を取り直して、皆さんがミソロギアに移住したいというなら私が連れて行ってもいい。捕虜から移住よりは優遇と安全を約束する」
((どの口で))
つい先程重傷者を作り出しておいて何を言っている、と思ったが言わない。女性に対して失言であったというのも事実であるし、何よりここは連邦軍基地内部である。にも関わらず敵であるはずの者が侵入……その出で立ちからスパイとして潜り込んできたではなく、警備を抜けてここまで辿り着いた存在だ。
しかもその理由がどうやら自分達の勧誘という明らかに掛ける手間とメリットが割に合っていないような行いにミソロギアという組織の底の知れなさに戦々恐々とする。
「断るのも受け入れるのも自由、次に捕虜となった時に移るのを決めてもいい。家庭を持っている人は説得するなら一緒に連れて行くのは可能です!えーっと後は……」
となにか言い忘れてないか忘れてないか腕時計型端末に映し出されているカンペを確認する姿を見ると――
(やっぱり乳臭いガ――)
「フンッ!」
修復されて痛みが和らいだ兵士が余計なことを考えたことで拳を食らうはめになった。ニュータイプ相手に下手な考えは命を縮めることになる。
ちなみに修復剤がまだ効いているので追加の投与は必要がない。
「こう言ってはなんだが手土産とか必要ないのか、アムロ・レイを撃てとか」
なぜ追い打ちしたのかわからないが、とりあえず質問をして判断材料を増やす。
「必要ない、というかそれは私達が困る。白い悪魔を祓うだけなら今でも数で押せばどうとでもなるの。でも今は個人で、もしくは少数で勝つことを目標としています」
絶句。
アムロ・レイの奮闘で連邦軍は辛勝をいくつか拾ってきたが、それは訓練の一環だと言われれば言葉を失くすのも仕方がない。
実際は、少数でもMSのスペック頼りで圧し殺すことはいつでもできるのだが、無人兵器でもまともに戦えることを目指しているのだが、そこまで敵か味方かも決めていない人間に教える情報ではない。
「さて、すぐに答えが出ないなら私は一度帰らしてもらう。後1分で侵入していることが気づかれるからね」
「それは大丈夫なのか」
「大丈夫、そこから脱出するのも訓練の内だから」
「マジで?」
「え?これぐらい普通でしょ」
対話とは互いに理解を深めることが多い。
しかし、今回に限っては対話することで理解が遠のくこととなった。