第七百四話
その場で返事はできず、後日という事になった。
大口を叩いているが実際基地から脱出することができるのかという疑問もあったのでそれを見届けてからでもいいだろうと視線で通じ合った。
何より勢いで亡命を希望するにはあまりにも常識と認識が違い過ぎた。
これが中位ナンバー以上ならそれなりに話を合わせることができただろうが、今回の個体は下位ナンバーであるため外部とのコミュニケーション能力が足りていなかった。
「わかりました。では私もついでの仕事を終わらせて帰還します」
そう言い終えるとほぼ同時に警報が鳴り響き、侵入者ありと基地全体へと知らせが齎されたが悠然と出ていった。
そしてそれから30分ほどが経過すると――
「ハハ、MSを奪って行きやがったぞ。しかも潜んでじゃなくて正面突破で」
侵入者が判明した段階で厳戒態勢であり、MSの格納庫などはメカニックやパイロットとして紛れ込むならともかく、堂々と正面から乗り込むとなると司令室と並ぶ警戒レベルが高い場所、いや、MSなどが存在するのだから司令室よりも戦力が充実している場所とも言える。
にも関わらず、そこを1人で突破したというのだから笑うしかない。
「おい、笑い事じゃない。あれはレイ大尉用に開発中のMSだろ!?こんな速度でセキュリティが突破されたのか!!」
MSのセキュリティは基本的にそれほど厳重ではない。
なぜなら敵に奪取され、使われたり技術を盗まれるよりも特定の味方しか使えないことの方が問題だからだ。
しかし、試作機や専用機などは別であり、その技術が盗まれることや今まで掛けた時間や資金、資源の多くが失われ、技術による優位性も失う。
だからこそセキュリティは厳重にしている……はずだった。
しかし、現実は苦も無く盗み出されている。むしろプルシリーズはコクピットに搭乗することもなく盗み出している。
アムロ・レイ専用機は、いや、現在のニュータイプ専用機と言われる機体にはサイコフレームが多かれ少なかれ使用されている。
そのサイコフレームはアレンが前々から言っているようにセキュリティホールとなり、パイロットがいない状態ならさして手間を掛けず、パイロットが搭乗していたとしてもニュータイプ能力に差があれば乗っ取ることができ、それを実行した。
むしろ、MSの強奪よりもサイコフレームによるセキュリティホールを連邦に見せつけることで対策を施させることが主目的だ。
ミソロギアでも対策は取っているが、やはり軍と同じく研究や開発の分野でも質はともかく、数の差はどうしても覆せないため、敵を利用することでそれを補おうというのだ。
時渡りという渡った先が未知ではあるが、確実に逃げる方法があるため危機的状況に陥っても問題からできる手法である。
「こりゃマジで移民した方がいいんじゃねぇか。また来るってことは更に厳重に守っても突破する自信があるってことだろ」
「俺達が告げ口して万全の態勢であっても問題ないってことだろうな」