第七百八話
連邦軍にとって歩兵による侵略は想定外であり、上層部は意見が割れた。
敵がMSでないのならテロリストとはいえ、警察の管轄になるのではないか、というものだった。
緊急時ではあるが、こういう縄張り争いはなくなることがない。
そのせいで初動に遅れが生じ、被害が拡大していき、責任問題に発展すると遅まきながら感じ取り、共同で対処することとした。
しかし、致命的な判断ミスがあった。
その警察と軍の共同となると最大戦力で装甲車、戦闘ヘリ程度しか投入されないのだ。
確かに生身の人間相手にはその程度で十分、というよりも戦車やMSなどは過剰戦力と判断され許可が降りない。
だが、それは相手が通常の組織であったなら、という前提である。
「この程度の武装で私達に立ち向かうなんて無謀も良いところ」
通常弾の範疇ならパワードスーツで弾き、徹甲弾はさすがに正面から当たると相応のダメージを受けるため余裕がなければ斜めに受けて流し、通常は避けるか触手で叩き落とす。
携帯火器最大の面火力である手榴弾は投擲では意味もなく、グレネード・ランチャーであったとしても弾速が遅く触手の前には意味がない。
プルシリーズが潜入訓練の際に負傷することがあったが、それはあくまで潜入するのに不向きなパワードスーツは装備せず、生身だったからだ。
「でも重火器なんて使えるわけないよね」
威力の高すぎると近くにあるコンテナを巻き込んでしまう。つまりはその中にいる一般市民を犠牲となる。しかも、プルシリーズはその気になれば躱すことも容易いので犠牲者が増えるだけでしかない。
「姉妹達の戦況は――」
サイコフレームによる共鳴をサポートされることで鮮明にタイムラグなく、5km以内に姉妹の情報を得ることができる。
ただし、今回投入されているプルシリーズの数は2000、そして情報は個別、指定ができるわけではなく、範囲の中にいる全姉妹の情報を取得するため膨大な情報量で一瞬思考が停止してしまう欠点があったりするが使う状況を選べばいいし、何より思考が停止した程度で不意打ちされるようなやわな鍛え方をしていない。
「概ね予想通りか、MSが出張ってきてからが本番だけど――まだしばらくは掛かりそうだね」
「ふざけんな!いい加減MSなんてSFチックなもんが出てきたってのに今度はハリウッド映画の主人公様のお出ましか?!」
「じゃあ俺達はやられ役ってか」
「まぁそんな扱いだよな。兵隊って。ハッハッハ」
「あの触手からして敵の方じゃね?」
「ふざけてる場合か!」
「いや、もとはお前が言い始めたんだが」
「でもぶっちゃけどうするよ。マシンガンも手榴弾も狙撃も効果がねぇぞ」
「それ以前に部隊が散り散りで有効な攻撃が――ッ来ます!」
「本体を狙え!撃てッ!!」
触手にいくら撃ち込んでも壊れる様子もなく、本体を狙ったところでダメージを与えることができない。
しかし、効果は多少あることが判明している。
パワードスーツの防御を貫通する徹甲弾の弾幕ならば触手が対処に使われるため、攻撃の手がゆるくなるのだ。
とはいえ、徹甲弾の残弾が乏しくなってきているのもまた事実であり、それに――
「飛行型が来るぞ!」
触手は厳密には連結された刃であり、蛇腹剣のようになっており、その連結を分離させ、飛行させて突撃させるという使い方も可能で、それを彼らは飛行型と呼称している。
「ハッ!!」
飛翔するそれを気合の入った声と共に警棒で叩き落とす。
この連結から離れた刃は無重力なら縦横無尽に動くことで敵を翻弄する運動性と機動性を有するが、重力下では両方とも低下してしまい、スポーツ選手なら避けることができるぐらいにまで低下してしまう。
しかし、その欠点も――
「ぐあっ?!くそ!!」
地を這うように襲いかかると同時に背後から、頭上から、と容赦のない攻撃が繰り出され、それに反応することができなければ――こうなるのだ。
「ギャアアアアッ!!」
刃が刺さった状態だったのだが、刺さった刃に高熱を発する。
更にダメージを……という意図がないわけでもないが、ただ単に大量出血から死までが近く、それに対応するように刃で焼入れすることで傷ついた皮膚からの出血を抑える。