第七十二話
ヘイズルという機体のデータが送られてきた。
実物より先にデータを送ってくるとは……なかなか察しが良いな。
そしてデータを見て——
「……なるほど、モノコックではなく、ムーバブル・フレームか……」
古くから使われている構造ではあるが……ムーバブル・フレームで軽量化という視点はいいと思う。
しかし、今まで採用していたモノコックから切り替えるのはどうなんだろうか。
いや、開発者としては少し気になるところだが、正直に言うとキュベレイIIとドライセンとザクIIIで一段落ついた感じがするのだ。
まだハマーン専用機の後継機というのも残っているが、こちらはしばらくおあずけだ。
正直、今開発してもすぐに新しい技術が生まれては反映して……と繰り返すのは勿体なさ過ぎる。
それに好意な組織のトップであるハマーンを失うのは色々と痛いのでできれば本来の専用機には多少大型化してでもIフィールドを搭載したいところだ。
わざわざ新しい規格であるムーバブル・フレームを採用する必要があるのか、それを開発、検討する手間はさすがに私達だけでは手間が掛かり過ぎるように思える。
それに導入できたからとすぐに反映させられるほどの信頼性があるかといわれると……微妙過ぎる。
このヘイズルに使われているムーバブル・フレームも一部導入に過ぎないのだが、どう見ても近い将来全ムーバブル・フレーム化するつもりだろうということは察するが……開発にはまだまだ時間がかかりそうだ。
それに、その件なら兵器開発部が検討している、とハマーンから聞いたので余計に私達が開発すべきではないな。
基礎的なことは人海戦術と予算がある場所がすればいい。私達のような天才は凡人が詰まっているところでブレイクスルーするのが仕事だ。
「それって最近、新しいクローン研究をしているから面倒で適当に言い訳しているだけですよね?」
「……」
まぁ、そのような理由が、無いこともないような気がしないでもない。
現在のクローン体、つまりプルシリーズはプロテインやトレーニングにより後天的な筋力強化を施している。
そして今回の試みは次の段階に踏み出そうとしている。
正確に言えばクローンの研究と言うより遺伝子の研究であるが、クローン体の筋肉の量を生まれながら増やすこと、内臓系の強化を試みているのだ。
今まではクローンが確実にニュータイプ能力が優れた個体を生み出すことを前提としていたので無茶ができなかった。
しかし、データの蓄積により、既にニュータイプが優れたクローン体を作り出すのはほぼ確実にできるようになった……まぁプルシリーズのみの話だがな。
筋力は後天的に成長させることができるので必要がないようにも思えるが、訓練を施すには時間が掛かる。それに身体能力を遺伝子的に底上げをしておけば力はゴリラ、走ればチーターを実現できるかもしれない。
夢が広がる。
突然だが、私が思っている以上に各地で反連邦の機運が高まっているようだ。
特に宇宙ではその機運が顕著に表れているらしく、最近はジオン残党を支援する者達までいるらしい。
そのおかげか、ジオン残党は物資面でも情報面でも行動しやすくなっていて、デラーズのような求心力がある人物こそ居ないが纏まりある動きを取り、より効率よく連邦やティターンズと戦うことができていると聞いている。
その恩恵がヘイズルの中破であり、アクシズに齎される略奪物資でもある。
そしてヘイズルを中破させた部隊には居住性を改善したムサイ級を2隻とゲルググを5機送ることになったらしい。
ハマーンも結構太っ腹……と言いたいところだが、ムサイ級はともかく、ゲルググに関してはドライセンとガザCへ移行するための在庫処分も兼ねているのだろう。
ただ、噂では旧式化し始めているザク(は既に旧式だが)やドムやゲルググなどを現行機に近づけるための追加武装が付けられたと聞いたのでハマーンに資料を見せてもらうように頼んだ。
そして手元に届いたのが——
「シュトゥッツァー……か」
ザクでビームライフルが使えるようにしたり、ゲルググはスラスターユニットで機動力を増強したり、ドムは機雷やミサイルなどの火力を増強した上にセンサーを強化したりと様々なバリエーションが用意されたようだ。
ただ、全てのバリエーションに言えることがウインチユニットというジオングのデータから作られた有線兵器が搭載されていることが気になる。
オールドタイプが有線兵器を使うとなると結構な技量が必要になるのだが、そのようなパイロットが送られる部隊に用意できるのだろうか。
まぁ私が気にすることではないのだが……しかし有線兵器か。
そういえば以前ハマーンがオールドタイプにサイコミュ兵器を使わせることができないかと聞かれたが、有線ならば無線と違ってハードルを下げることができるかもしれないな。
問題は微弱な脳波を感知することができるかどうか、か。
……でも今はクローンの研究で忙しい上に、プル達を親衛隊に派遣している関係上、資源の収入が減っているため、あまり余裕がないのが現状だ。
その代わり、プル達が物資の関係上あまり頻繁にできない模擬戦をアクシズ持ちで他の親衛隊と行うことができているのはプラスとなっている。
戦闘自体は初期型や中期ならほぼ負け無し、後期だと少し遅れを取るぐらいだが、やはり実機でMSの操縦する経験は少しでも多い方がいい。何よりデータがより多く取れる。
そういえば余談だが、ガトーやカリウス、ラカン・ダカランは親衛隊入りしていない。
これにはわけがあり、ガトー達を親衛隊入りさせてしまうとハマーンの直轄ということになってしまい、他の者達との関わりが薄くなってしまう。それによってタカ派が更に暴走してしまう可能性を考慮してのことだ。
ラカン・ダカランは腕前こそいいが、現場主義で親衛隊などという窮屈な役職は好まないと断られたそうだ。
組織って面倒だよなぁ。