第七十三話
ジオン残党から更に情報が入ってきた。
それによればサイド1の30バンチコロニーで反地球連邦運動が活発化し、デモが行われる規模にまで膨れ上がっていて現地の連邦軍では抑えきれず、最近連邦軍に取って代わっているが一応特殊部隊であるティターンズが動くという。
それに対抗するようにジオン残党はティターンズの動きを阻止するようだ。
反地球連邦が活発になれば自ずと味方が増えるということになり、ジオン残党達も直接的、間接的に支援を受けやすく成り、動きやすくなる……というか既に支援をされているのではなかろうか。
「しかし……ティターンズがスペースノイドとはいえ、自国の民を相手にするのはこれが初めてか」
今までは実態がどうかは不明だが、名目上はジオン残党狩りでしか活動してこなかったティターンズが今回はデモの鎮圧という本来の枠から外れた仕事に動き出した。
これでティターンズがどのような組織なのか、本質的なものが見えてくるかもしれない。
ただのジオン残党狩りの組織なのか、それともアースノイド至上主義なのか、はたまた別の何かなのか。
「その結果如何ではアクシズも動くことになるかもしれないな」
今回のデモ鎮圧にティターンズが梃子摺ることがあれば、連邦、ティターンズ恐るるに足らずと勢いづき、地球圏へ。
もしデモ鎮圧方法が酷い有様ならスペースノイドへの圧政に今こそ立つべしと、地球圏へ。
どちらに転んでも行き着く先は同じという……ほどほどに鎮圧してくれと切に願う。
私の計算ではアクシズが活路を見出すには30バンチコロニーがどうなったとしても、まだまだスペースノイドの不満が足りない……本当に適度な対応を期待するところだ。
アクシズの勝利する要因があるとすればスペースノイドの完全取り込みは必須だ。特に一年戦争でほぼ無傷なサイド6を取り込みたい。
ルナリアンも取り込めたら文句なしだが……中立という名の死の商人のような存在を取り込むのは難しいだろうな。
「アレン……不吉なことを言わないでもらおうか」
「いや、冗談ではないのだが」
「わかっている。しかし、今はその話を聞きたくない」
一組織、一国家元首がそんなことではいかんと思うのだが……まぁ本人もわかっていると言っているし、どうも疲れているようなのでこれ以上言う必要はないか。
「そういえばプル達を貸し出してからしばらく経ったが、親衛隊の方ではどうだ?」
本人達からも聞き取りを行っているが、精神が未熟な彼女達では客観的に評価ができているとはとても言えないからな。
大体、私が細かく聞かなかったら楽しかった、弱い、面倒、特になしという出来の悪い子供の読書感想文のようなものしか聞けないからな。
「一言で言い表せば、浮いた存在、といったところか。突然現れた女パイロットで素顔も見せず、素性もわからず、ろくに話さず、これだけの要素があって馴染んでいるわけがない」
「……まぁそうだろうな、とは思っていたが」
「ただ、MSの操縦に関しては認められつつある。まぁ自分達が惨敗しているのだから認めて当然ではあるがな。しかし、やはり競う相手がいるというのは良いものだ。親衛隊も対抗意識を持ち、訓練に一層打ち込むようになった」
「直接的な嫌がらせなどに出る可能性はあるか?主に親衛隊の命に関わるぞ」
嫉妬から来る嫌がらせは弱者が群れを成した時によく行われる手段だ。
間接的な嫌がらせならプル達の精神的ダメージとなり、ニュータイプ訓練となるからいいのだが、直接的に暴力などに出た場合は遠慮なく自衛するだろう。
そしてプル達は肉弾戦でも常人を逸する能力を持つが残念なことに訓練相手が姉妹同士しかいないため常人に対しての手加減などというものは学んでいない。つまり、やり過ぎてしまう可能性がある。
「……注意しておく」
サイド1の30バンチの反地球連邦運動の続報が届いた。
ジオン残党はティターンズと交戦するもお互い被害を出したが結果は敗北、ティターンズの阻止に失敗。
被害が大きいのはティターンズが精鋭であることはもちろんだが、ヘイズルが2機もいたことも原因だろう。
阻止に失敗し、ティターンズは予定を遅らせながらも30バンチに入り——
「まさか皆殺しにするとは……」
しかもデモ参加者だけではなく、コロニー内にいた無関係な住人も、政治家も、連邦兵も、全て等しく皆殺しにするとは、いい感じに狂っているやつがティターンズにいるようだ。
「これはアクシズにも波及するぞ」
「わかっている!」
ハマーンは頭を抱えつつ叫ぶように答える。
公式的には30バンチで疫病が発生して全滅、ということになる。
コロニーとは物理的に隔離されているため情報統制が比較的簡単に行えるのはメリットでありデメリットだな。
アクシズやジオン残党は真実を知っているが、いくら世論に訴えかけたところでテロリストに等しい存在が言っても受け入れられまい……こういう時は国際的信頼は大事だな。