第七十四話
案の定と言うか、30バンチの虐殺はアクシズの地球圏へ帰還、そして連邦打倒が叫ばれている。
今までアクシズ内の派閥は大体タカ派7:ハト派3といったところだったのがタカ派9:ハト派1と圧倒されてしまっている。
これには地球圏派遣組(シャア達のこと)が連邦に潜入するという任務の性質上、タカ派では不都合とハト派を引き抜いて連れて行ったことも遠因だ。
これほど差が生まれてはいくら独裁主義とは言ってもハマーンだけでは……ハト派と組んだとしても止めることはできないだろう。
それに連邦軍とティターンズに付け込む隙が生まれたのも事実だ。
さすがにデモ程度……しかもジオン残党というテロリストが存在していると言ってもほとんど平和である時に皆殺しなどという非道な行いをしてしまった以上、大義として、スペースノイドを束ねるのには十分なものだ。
上手く使えば……いや、そうしなくても明日は我が身とルナリアンも協力するだろう。ティターンズがスペースノイドとルナリアンを区別するかわからないのだから。
そして、この非道な行いを主導した人物がシャアから伝わってきた情報で判明した。
その人物はバスク・オム大佐、特徴的なゴーグルを身に着けているがこれは一年戦争時にジオンの捕虜となり拷問された名残らしい。そして奇しくもノイエ・ジールを大破させたソーラー・システムを指揮していた人物でもあるのだとか。
ともかく、アクシズの勝つための道筋が最低限整ったと言えなくもない……まぁやはり国力差が有りすぎて無謀に思えるのだが、そのあたりは言ってもわからないだろうからな。
「戦争に……なるんですか?」
「十中八九、間違いないだろうな」
「だからプルシリーズを新たに用意しているんですか」
「それもあるな。しかし、何より労働不足は如何ともし難いのだ」
プルシリーズを量産品にするつもりはなかった。その気持ちに嘘はないが……研究者魂(潤沢な資源)の前にはそのようなプライドは軽々しく粉砕してしまった。
1度贅沢な生活(資源)を経験してしまったら抜け出せなくなってしまったのだ。……まぁ今でもスクラップ商品は製作しているがな。
「キュベレイmk-IIを追加で3機も用意したのも……」
「ああ、戦力はいくらあっても困らないからな」
一応ハマーンとハト派が色々と策をめぐらしているようではあるが、流れを変えるには無理がある。
私の予想ではおそらく時間稼ぎぐらいしかできないだろう。
それがわかっているからハマーンもドライセンの生産とコストが掛かるという理由で先延ばしにしていたザクIIIの生産を決定した……凄い渋々だったが。
ちなみにアレン・ジールの増産もされているが、こちらは適応できるパイロットが少ないため、あまり多く用意しても予備機にしかならないだろう。
初期型に比べてデータ収集もできているし、OSも改善しているが、扱いが難しい機体であるのは今でも変わりない。
いや、パイロットが素人でも高機動要塞は無理でも肉壁ぐらいにはなれるから無駄にはならないか。
そういえばアレン・ジールも改修してしまった方がいいかもしれない。
……ああ、だめか。今は少しでも数を揃えることに集中しすぎていて、既存の機体を改修するほどの余裕はないか、ガンダリウムγはガザCにこそ使われていないがドライセンやザクIIIに使われている以上、余裕はない。
「戦争……戦争……そうですよね」
スミレがこれほど動揺しているのはやはりレベッカ・ファニング少尉(トゥッシェ・シュヴァルツの元パイロット)のことがトラウマとなっているようだ。
そもそも自身が人殺しの道具を作っておいて今更だと思うのだが……これだから若いもんは。(アレンの方が断然年下)
こういうことは自分で折り合いを付けるしかないので放置しておく。
そういえばGP03に触発されたというオモチャ……確か名前はズサ、とか言ったか、アレが生産することになった。
最初は正気か?と思ったが、万が一Iフィールドを搭載しているMS、MAが出てきた場合打撃力に欠けるし、弾幕要員が必要だということになったそうだ。
ただしブースターを付けた半MS半MAとしてではなく、完全なMAとして再設計することになったようだ。
それならMSよりは使い道があるだろうが……正直ガトルを改造したものとどう違うのかイマイチわからない。
「そういえばアレン、お前の両親は何処にいるのだ?」
「良心?何処に?……随分遠くなような近いような?」
「……ちょっと何を言っているかわからない」
「ん?確かに良心が何処にというのはおかし——ああ!良心じゃなくて両親か」
言葉とは難しいものだな。
「私の両親か……一応存命のはずだ。職業は聞いた話だと私と同じ科学者らしいぞ」
「なぜそんなに不確かなことばかりなのだ」
「いや、私は両親とあった記憶がないからな。通信で会話はしたことあるが」
「…………そうなのか」
「ああ、雇われ家政婦に育てられたからな」
親と同じ科学者となった今では気持ちはわかる。
子供に時間を取られるぐらいなら研究したいというのは研究者という生物としては仕方ないことなのだ。
「ちなみに私が知識は書物を読んで独学で学んだものだ」
「……独、学?」
「え、ええぇぇー?!」
いや、教本やレポートには事欠かなかったから学ぶには不自由ない環境だったのさ。
「「いやいやいやいやいやいや」」
あの頃は新しい発見に満ち溢れていて楽しかったなぁ。
今でも新発見は毎日あるが、地道にデータを積み上げる作業は退屈な時がある。
他の人達は自分のように独学で勉強していたということがない……つまり自分が特殊な例だと聞かされたのは12歳を超えたあたりの頃の話だ。
「……私も天才って言われてましたけど、本当の天才ってこういう人を言うんでしょうね」
「これで身体能力を満たせば完璧超人だな」
フッ、そんなことを言われ慣れていて今更どうとも思わんぞ……まぁプリンでも食べ給え。
「でも」
「だが」
「「天才は天才でも天災の方だがな(ですけどね)」」
それも言われ慣れているがな。とりあえずエクレアも食べ給え……そして体重計の数字で絶望するがいい。