第七十六話
プル15までロールアウト完了、そして続けてプル18まで作り始めた。
プルシリーズの定数は33人なので少し予備として40人は欲しい。
戦争が始まればどれだけの人数が死ぬかわからない。
いくら通常の人間より成長が早いクローンとは言っても覚醒までには時間は掛かる上に教育もしないといけないのでやはり時間が掛かる。
本当は50人ほど用意したいところではあるが時間的に余裕があるかわからない上に、食料の供給が間に合うか怪しくなるので断念した。
食料に関してはアクシズ自体に限度があるため解決は難しい。これは金銭の問題ではない。
物価の上昇というのは余力がある状態だから上がるのであって、物がなければ上がるも上がらないもなく、金なんてあっても意味はない。
アクシズを地球圏に向かわせる道中は座標が安定しないため貿易がストップしてしまい、物資は配給制に移行されることが内々に決定している。
正直、誰かを殺してでもプルシリーズを増やすべきだと思うんだがな。プルシリーズ1人で一般兵10人分は使えるだろうに……スミレが言うには人道に反し過ぎるらしい。非効率な。
並行してキュベレイIIも3機がロールアウトし、合計9機となった。
そしてそのキュベレイIIは総出で資源確保のために採掘作業中だ。
「……何度見ても贅沢過ぎますよね……いくら試験運転を兼ねていると言っても」
スミレ、言いたいことはわかるがいい加減聞き飽きたぞ。一体何回目だ、その台詞。
そんなプル達がキュベレイIIで採掘に出る度に聞こえる呟きは置いておくとして、私は前線(採掘作業)から退いたジオングの改造に取り掛かっている。
ジオング……正確に言うとパーフェクト・ジオングなのだがダサいのでジオングでいいだろう……をハマーン専用機にしようと思う。
かなり大きい機体だから追従性が悪くなるのでハマーンの好みには合わないだろうが、Iフィールド発生装置を搭載した初のMSだということで我慢してもらおう。
そして……私が新たに設計した四肢を機体と接合せず、磁力による簡易接合に止め、ファンネルと同様にサイコミュによる無線操作で制御を行い、ファンネルと同じように飛ばすことができるようにしようと思っている。
こうすれば四肢の破損は所詮パーツの破損でしかないため、換装する必要すらもなくなり、バラバラ死体とか言って遊べるのだが、残念ながら問題もある。
四肢を本体と繋がないということは推進剤や動力をそれぞれに確保する必要があるのだ。
ファンネルのように本体から供給するという方法もあるが……そうなるとシステム的に複雑になってしまうし、それ相応の設備が必要になり、結果的に重量が増えることになる。
この問題は解決の目処が全く立っていない上にメリットも言うほどあるわけではない。だが、試さずにはいられないのが科学者、開発者というものなのだ。
それに、本当にこれを実戦に使うつもりはない。あくまでデータ取りだ。
「戦争の準備中にこんなことしてていいんですか」
「このシステムは大型MSでないと難しいのだから仕方ない」
わざわざ大型MSを自前で用意して試すにはあまりに費用が掛かりすぎるのだからこの機会を逃す手はない。
しかし……ジオングのコクピットはなぜ頭にあるのだろうか。
いや、確かに脱出機能としてはメガ粒子砲を搭載しているあたり優秀だとは思うぞ?しかし、防御性が低いところになぜコクピットを設置したのか……ハマーンを載せるとなると場所を変更した方が良いのだろうが、そうなると設計にまた時間が掛かるな。
……面倒だからプルシリーズ用に調整するか?
「それにしてもジオン公国は相当この機体に力を入れていたんですね。多分アクシズだと再現できませんよ。これ」
技術は日進月歩とは言うが、地道な進歩は日常的にあっても、革命的な進歩はあまり起こることはないからな。
ハイエンド機ともなれば辺境基地で再現できない機体であっても不思議はない。
まぁ私の手に掛かればできなくはないだろうがな。
「そんな期待を改造するなんて恐れ多いような」
まぁこの機体はジオン公国の象徴のような機体だからわからなくもない。
とは言っても容赦はしないがな。
兵器開発部がムサイ級、ザンジバル級の代わりになる戦艦を開発中らしい。
言われてみればMSばかりに目を奪われていたが、戦艦も重要だ。
ハマーンによるとMS母艦としての役割を果たすためムサイ級どころかザンジバル級より大きく、打撃能力を向上させた上に、大気圏突入、大気圏飛行も可能になっている。
つまり、地球侵攻への準備の一貫というわけだ。
狙って作ったわけではないが、ドライセンも大気圏内でも大きく活躍できるスペックを持っているが……私としてはそんなつもりはない。
私も自身の船を作っているが、作っている、作ったという感慨などは何も持ち合わせていない。あれは必要で作ったのであって新機軸でもなく、搭載システムに大きく変わっているが元々のヨーツンヘイムを改造、改修しただけなので新兵器と呼べるようなものではない……例えほとんど原型が残っていないと言ってもだ。
そういう意味では完成が楽しみだ。刺激を与えられていい影響を得られそうだ。