第七十七話
ハマーンは頑張った。
そしてハト派も頑張った。
30バンチの虐殺、シャアが世話になっている反地球連邦組織、エゥーゴでは30バンチ事件というらしいが、その事件が発生してからは地球圏への侵攻……本人達が言うには帰還……を即実行すべきという機運の中で、やれ資源不足、やれ戦力不足、やれ現在行っているMS開発が一段落するまで待て、やれ殺ってしまえ、やれ戦艦の定数が揃うまで待て、やれアクシズの核パルスエンジンの点検が終わっていない、などなど理由をつけて何とか時間を稼いだ。
そう、時間を稼いでいるのだ。つまり、地球圏への帰還は正式に決まったのだ。
これによりアクシズはかなり活気づき、それが知れたジオン残党達やスポンサー、アナハイムなども行動を起こし始めた。
もっともエゥーゴが軍閥化し始めたことで呉越同舟としてジオン残党が合流したり、アナハイムはスポンサーだったりと、アクシズの動きに合わせただけの動きではないがな。
これで戦争はほぼ確定と言えるだろう。
まさか連邦やティターンズが降伏なんぞしてくるわけないしな。
ただ、戦争準備中にも関わらず、アクシズの景気は上向きとなっている。
ティターンズの強引なやり方は30バンチ事件以外にも数々あり、不満が溜まっていることは知っていたが、こんな辺境の一組織をよく支援しようと思うよな。分の悪い賭けが過ぎるぞ。
話は変わるが、ガトーが特別機動部隊を設立するという。
もちろんカリウス・オットーもそれに所属するが、これはザクN型の機動力が他の機体よりも優れていて、他の機体と歩調を合わせてしまっては特性が活かしきれないという理由からだ。
選抜したメンバーで構成され、アレン・ジール1機、ザクN型3機、スラスター強化を行った高機動型ドライセン1機、ザクIII2機、ガザC2機からなる部隊を編成すると聞いたのだが……アレン・ジールはともかくとしてザクN型1機と高機動型のドライセンとガザCはどこから調達する気なのか。
「ということでアレン殿、頼む」
と、頭を下げるガトーとカリウス。
……まぁ、予想はしていたが、さすがに私も自分の勢力を整えるだけで手一杯なのだが。
「そのかわりと言ってはなんだが私にできることがあれば協力しよう」
「私も同意」
「ほう…………ほう、ほう、ほうほう……いいだろう。明後日には用意しよう」
「は、早いな」
「それで早速だがガトー中佐とカリウス中尉にお願いがあるのだが」
(な、なんという笑顔だ。こ、これは早まったかも知れぬ)ガトー
(……遺書を書いておくべきだろうか)カリウス
(南無南無)スミレ
今更後悔しても遅い。
さて、以前から試してみたかった……というか戦争に勝つためにやろうと思っていたことだったが説得をどうしたものかと悩んでいたので飛んで火に入る夏の虫といったところか……エースパイロットの強化(物理)である。
今までイリアとプルシリーズに施してきたプロテイン(みたいな何か)で強化をエースパイロットに施し、戦力強化に繋げようというのだ。
戦争とは数だというのは古の時代から知られる兵法だ。だが戦争では数かもしれないが戦闘という局地を見れば兵器の強さが数を上回ること往々にしてあるし、それをジオン公国は証明してみせた。
しかし現在は兵器の強さ(MS)もほぼ五分となった以上、別の部分で埋めなくてはならない。
そこでエースパイロットの強化(物理)である。
幸い、ザクN型を作る上でガトー達のパーソナル・データは入手済みであるし、プロテイン(のような劇物)も既に調整済みである。
ちなみにラカンやα達(最近になって思い出した初期の検体達)用に調整したものも用意してある。
さて、どのようになるか楽しみだ。
その日からガトー達の睡眠時間は地獄となった。
これが他の者達だったなら挫折してアレンの怒りを買っただろうが、ガトー達の義理堅さはアクシズ一と言っても過言ではなく、約束した10日間をきっちりやり通した。
結果、ガトー達はザクN型の機動を九割程度扱うことができるようになった。(強化前は七割程度)
ガトー達の強化に伴い、プル達にもいい影響が出ているようだ。
今まではガトー達とプル達との経験の差が大きく、更に接近戦のみというハンデで勝利していた。
(あくまでアレン視点であって、経験も操縦技術もガトー達の方が上)
それが今では身体能力でもガトー達とプル達の差は小さくなり、明確にプル達が負けるようになってきた。
これは良いことだ。
人間は負けなければ、失敗しなければ成長しない。
プル達は身体能力もニュータイプ能力も優れていて、更にクローンであることから他の人間とは違うという差別というほどではないが意識を持ち始めている。
そのような傲慢はただただ才能を振り回している段階であるプル達にはまだまだそのような意識を持たれては困るのだよ。(通常の兵士達が死んでしまうような訓練をしていてまだまだというアレン)
まぁ、プル達はハマーン専用機となっているキュベレイと同種であるキュベレイIIを公では使えないからガーベラ・テトラや回してもらったザクIII、ドライセン、リック・ディアスなど、サイコミュ兵器はおろかサイコミュ自体も搭載していないMSなので不満たらたらだがな。
「ガトー達も体調に変化はなさそうだな」
バイタルチェックを行った結果を眺めると特に異常はなかった。
いや、むしろ負傷してできた古傷による後遺症(筋肉のつっぱり程度)がなくなっているようだからむしろ体調が良くなっていると言っていいだろう。
「やはりラカン達にもプロテインを差し入れすべきだろうな。ソウニチガイナイ」
(逃げろ、逃げるんだラカン)ガトー
(何とか逃げてくれ、私では止められん)ガリウス
(ニゲテー)スミレ
(可哀想)プル達
(それはいい考えだ)ハマーン