第七十八話
0086年1月31日、アクシズは戦艦、MS、兵士、戦略物資は定数に達し、核パルスエンジンの整備も完了した。
つまり、タカ派を抑える枷はなくなってしまったのだ。
『冷え切ったこの辺境より我らの意思を再び連邦に見せつけるために地球圏へと帰還することを決定した!決行日は2月6日、厳しく戦いとなるであろうが皆の力を貸してもらいたい!全てはミネバ様のために!』
『ミネバ様のために!』
ハマーンも大変なことだ。
勝ち目の薄い戦争を自身の意思とは関係なくやらされ、しかも演説までさせられて、更にこれからは兵士に死ねと命令しないといけない。
組織の、国のトップとしては当然だろうが、周りに押し付けられた形で摂政となったことを知っている立場としては同情もしたくなる……と思う。
それにしても演説を聞く限り、ジオンという言葉が出てこないが……おそらく旧ジオン公国とは違うということを無言で訴えたのだろう。
そしてミネバの名を繰り返すことでザビ家が中心であることには変わらないということも伝えている。
つまり、ジオンという国を次ぐのではなく、ミネバを中心として新たに建国することを目指しているのだ。
ジオン公国という名は遺産も多いが負の遺産も多いので極力使用を控えているのだろう。そもそもミネバを掲げている以上、ザビ家という名は使えるのでジオン残党は集められるため国の名前ぐらい変更しても問題ない……と思うが、それは一概に言えないか。
『ハァー……とうとう地球圏に行っちゃうんですね。物資不足から解消されると喜んでいいのか、戦争に行くと嘆けばいいのか悩むところです』
通信からスミレの悩ましい声が聞こえてくる。
ああ、そういえば私が今、何をしているのかというとプル達と共に全力で採掘作業中だ。
戦争を始める上で資源はいくらあってもいいし、どうせアクシズが移動を始めると研究時間はいくらでも取れるのだからと採掘に力を入れているわけだ。
ちなみに私の戦力はプルシリーズ27人、キュベレイIIを14機、アッティスに食料生産設備とファンネル800基を整えるだけで精一杯だった。
プルシリーズが定数に達しなかった理由は、交通量が増えたアクシズ宙域で輸送事故が発生し、それがたまたまクローン製造用の材料を輸送船だったのだ。全く、迷惑な話だ。
出発までにキュベレイII6機分の資源を確保したいところだ。
私の周りにはプル達がいるが彼女らが操縦しているのは採掘作業用の機械……を効率よく行うために開発された(私が開発したのではない)モビルワーカー(以降MWと略す)だ。
私達がなぜMWで作業をしているかというとMSで行うのも効率が悪いというのもあるが、現在はいつもお世話になっているお姉さん方と一緒に採掘デート(らしい)中だからだ。
キュベレイIIで採掘作業をしているとバレるのは都合が悪かったのでキュベレイ組のプル達とは別行動中だ。
ちなみにデートというにはプル達もいるが、そこは気にするところではないらしい。
それにしても……削岩の振動は体に堪えるな。
さて、今日はとうとうアクシズの核パルスエンジンが点火される日だ。
これがアクシズにとって地獄への旅路になるのか、天国への階段となるのかは知らないが少しはマシな未来になるよう努力するとしよう。
資源に関してはなんとかキュベレイII6機分を用意することができたので道中、キュベレイII2機と予備パーツを生産するのみだ。
プルシリーズの材料の確保は結局3人分しかできずにいた。
残りの3人分の材料は地球圏に向かう道中に寄る基地……アムブロシアで受け取ることができるらしいが、教育期間が短くなってしまうのは残念だ。
その後しばらくはアムブロシア付近で停留する予定なんだそうだ。
いくらティターンズの汚点やエゥーゴという反組織が存在している好機とは言っても情勢は刻一刻と変化する。
もしかするとエゥーゴが壊滅したり、ティターンズが連邦を完全に乗っ取ったり、エゥーゴとティターンズが本格的な抗争を繰り広げたりしている可能性もある。逆にエゥーゴがティターンズを打倒している場合はかなり難しいことになるだろうな……いや、シャアがエゥーゴの幹部にいるのだから何とかとりなしがあるかもしれない……などと期待するのはシャアを過大評価し過ぎだろうな。
まぁエゥーゴはジオン残党を受け入れているぐらいなので、そう悪い関係にならないはずだ。
問題はタカ派一色であるアクシズ内部が収まるかどうかだが、それはおえらい方が何とかすべきで私が考えることではない。
「アクシズ以外の場所に行けるなんていつ以来かしら、いいところだといいんだけど」
「アクシズの道中にあるだけあって、随分潤っていたから期待は裏切らないだろう」
基地自体はボロいが、娯楽などは中継地点ということもあってアクシズなどより豊富だった……はずだ。少なくてもスクラップはいっぱいあって楽しかった。
「……それは娯楽ではありませんよ」
おや、そういうスミレも手がワキワキ動いているようだが?
「……これは手が凝るのでストレッチをしているだけです」
誤魔化すのが下手過ぎるだろう。
そういえば最近は生産や採掘ばかりしていて研究もスクラップ発明もしていなかったな。
世話になったお姉さん方にお礼として何か贈るか。
「こんにちは」
そう言って入ってきたのはイリアだった。
親衛隊に入ってからと言うもの、ハマーンの片腕としてこき使われていたため、ここに来る頻度は下がっている。
以前来てから既に1ヶ月は過ぎているはずだ。
「イリアちゃん、久しぶりですね」
「久しぶりだな」
お久しぶりですとイリアからの返事を聞き……おや、もしかすると——
「仕事の以来、か?それに……イリア専用MSの?」
「はい。良くおわかりで」
まぁニュータイプとして当然だ。
しかし、イリアの機体か……現在使っているのは私が調整したゲルググのままだったか……それでは格好がつかないか。
確か、親衛隊に配備されているのはガッライ(プルシリーズ専用)と指揮官用に改造されたザクIIIとドライセンだったはずだ。
ガッライ(ヤクト・ドーガもどき)はサイコミュを搭載しているがファンネルが使えず、機体性能がイリアに追いつかないため使い勝手が悪いだろう。
ザクIIIもドライセンもガッライより性能が劣るので論外だ。
「ふむ、ではイリアが使っているゲルググとガーベラ・テトラを分解して作り直すか。ついでにサイコミュを搭載して……ああ、あの試作中のサイコミュを載せてみるか?信頼性はないがひょっとするとオールドタイプの脳波すらも感知するほどの感度を備えているはずだからイリスでもサイコミュ兵器が使えるかもしれない……」
ああ、また時間が潰れてしまう。