第八十話
ガンダムmk-IIを強奪以来、エゥーゴとティターンズの抗争は本格的激化する。
私が想像していたよりエゥーゴの手や耳は長く広いようで、数と一部以外は質に劣るエゥーゴが見事なゲリラ戦を仕掛けている。
ゲリラ戦とは随分昔からある戦法だが、前提条件がある。それは圧倒的多数の協力者だ。
昔のゲリラ戦でも身を潜め、武器弾薬の補充が欠かせなかったが現代では更にその必要性が増した。宇宙という舞台では拠点となるコロニーか基地、移動手段として必要不可欠な船、戦闘の花形となったMS、それらの整備など昔から比べると民間組織が行えるような戦法ではなくなっているし、何より情報が必要だ。
広い宇宙で情報なくして待ち伏せ的なゲリラ戦が起こることはまず無いし、情報の入手は連邦内部同士だからといってティターンズはエリート集団である以上そう簡単に情報を得られるとは思えない。
……思えないのだが、それが成立しているということはエゥーゴはそれほど……いや、どちらかと言うとティターンズが嫌われているのか?30バンチ事件がそれだけ浸透しているのだろうか。
それはともかく、エゥーゴが思った以上に善戦しているのは間違いない。
そして、エゥーゴはなんと、連邦軍本部であるジャブローに強襲した。
エゥーゴも大胆なことをするものだ。正直、行う手段をいくつかすっ飛ばしている気がする。
ただし、ティターンズも然ることながら、ジャブローはエゥーゴを誘い出すための囮で、本命は核爆弾による一網打尽を狙ったようだ。
……宇宙ならともかく地球で、たかがテロリスト(エゥーゴ)相手に核爆弾を爆発させるとはティターンズも先が知れるな。あくまで戦争中だったジオン公国のコロニー落としより悪質……とは言わないが同等なぐらいの愚行だ。
いくらテロリスト(エゥーゴ)が行ったものと情報操作したところで真実ではない以上、ちょっとしたことで逆転することもある。それに連邦軍本部への攻撃を未然に防げなかったことで連邦軍の評価は大きく下がった。
「これは本当に勝機があるかもしれないな」
と私が思うぐらいにはティターンズは愚行を重ねている。
……いや、ちょっと待て……もしかして連邦軍の評価を下げることでティターンズが連邦を主導するためにハードルを下げた、という可能性もあるか?しかし、それにしては大胆過ぎる。
それからしばらくはシャアからの情報も途絶え途絶えとなった。
地球はティターンズと連邦のテリトリーでもあるし、度重なる戦闘と移動で苦労しているらしいので仕方ないだろう。
こうなるとハマーンとナタリー中尉は渋々だったがエゥーゴに実戦経験が豊富なシャア達を派遣したのは英断と言えるだろう。
「そういえば、ヤヨイが随分奮闘していると聞いたが……シャアよ、データぐらい送ってこい」
ヤヨイ(リカルド(現在はロベルト)と縁があった元2代目トゥッシェ・シュヴァルツパイロット)がガンダムmk-IIを強奪した際に追撃してきたティターンズを壊滅させたそうだ。
その中にはカミーユ・ビダンの父親とエゥーゴに入る前からの因縁があるティターンズパイロットも撃破しているらしい。
……ティターンズのMSパイロットはともかく、父親を殺したってどうなんだ?いや、戦場のことだからそれはいいとして、カミーユ・ビタンはよくエゥーゴに入る気になったな。
親とは不仲であったとは書かれているが……まぁニュータイプとして何か感じたと考えるのが妥当か。そうでないとさすがに親殺しと共に行動なんてできないだろう。
「しかし……シャアにしろヤヨイにしろ、リック・ディアスではパイロットの能力を十全に発揮できているとは言い辛いだろうな。ナタリー中尉にもリカルドにも世話になっているしMSを送れたらいいのだが……」
む?私が直々に作らなくてもアナハイムに作らせればいいか?アナハイムでも何やら新しいMSを開発しているらしいがサイコミュは搭載されているのだろうか……一応アナハイムにはジオン系の技術者はいるのだから大丈夫か……ケッシテあなはいむノシンガタガキニナルワケジャナイゾ?
「ああっ!!ティターンズももう少しマシな行動ができないのか!」
ドアが開いたかと思うと怒りを隠さぬ声が響く。
その声の持ち主はアクシズの実質トップであるハマーンだ。
「随分荒んでいるな」
「ティターンズの愚行でアクシズ内では早々に動くべきだという声が大きくなっているのだ。気持ちはわからなくはないが、さすがに今動き事はできない。せめてもう少し他の同志が合流してきてからでなくてはな」
今、アクシズはハマーンが言っている通り、他のジオン残党を併合している最中だ。
そして合流してくるジオン残党が所持しているMSはほとんどが旧式であるため、ガルスJやズサなどを与えて戦力底上げを図っている。
もっともこれを見越してMSの生産をアクシズのパイロット数以上行ってきたのだからこうならないと困るのだがな。
おかげで最近は旧式MSの在庫が増加の一途を辿っている。もちろん私の倉庫でも増えてきている。
最近はガルスJ、ズサ、ドライセンの3機が生産され、ガザCは変形回数制限という問題を改善し、支援砲撃と一撃離脱戦法を意識して改修した機体がもうすぐ完成するらしいので保留中だ。新型の名前は十中八九ガザDだろうな。
「まだ機種転換訓練もままならないというのに……もしやティターンズは不穏分子を炙り出すためにあのような行いをしているのか?」
「その可能性もあるが、さすがに大掛かり過ぎる気もする……いや、地球連邦という大きさを考えると不自然でない気もするが……」
アクシズと地球圏のほとんどを支配する地球連邦では規模が違い過ぎてわからないことが多過ぎる。
そんなことを考えているとハマーンが持つ端末が鳴る。
ハマーンはあまり多くは話さないところを見ると、どうやら何かの報告のようだ。
「……ハァ、建造したグリプス2とア・バオア・クーの移動を観測したそうだ」