第八十五話
<エゥーゴ>
「デブリだと思われていたものが戦艦であることが判明!艦種は……ヨーツンヘイムと酷似!」
「一体何処の馬鹿だ。こんな大事な時に……」
ティターンズが行おうとしている非道な作戦、コロニー落としを阻止すべく、主力艦であるアーガマとアイリッシュ級(ラーディッシュの艦種)2隻、サラミス級6隻、合計42機のMSという月に存在するエゥーゴの総戦力を投入した決戦である。
それに突然所属不明の乱入者が現れるなどという事態は敵味方双方にとって迷惑なもので、ブライトの零した言葉は指揮する者達の代弁でもあった。
「所属不明艦発砲!ティターンズのサラミスに直撃!しかし損害軽微のようです」
「味方……なのか?」
「所属不明艦からMS発進を確認、データ照合……ありません!数は2、4、6、8……12機です!映像出します」
「これは、ジオンと見ていいのだろうか」
それにしても今のジオンに……ジオン残党にMSを開発するだけの力があるだろうか、と考えを巡らせているブライトに更にトーレスから声がかかる。
「ヤヨイ軍曹(本当は偽名を使ってるし階級が違ったりしますが紛らわしいのでアクシズのもので統一)から艦長に通信が入っています」
ブライトは第1戦闘配備というのに通信?と訝しげながらも繋げるように指示を出すと——
『所属不明艦には絶対攻撃しちゃダメ!絶対ダメ!攻撃したら私逃げる!』
「ヤヨイ軍曹、落ち着け。一体何だと言うんだ。あの艦を知っているのか?」
『艦は知らない。でも乗ってる人は知ってる……というか感じるの!嫌な予感がビンビンだよ!攻撃しちゃ絶対だからね!』
言いたいことを言うと通信を一方的に切られてしまう。
要領を得ないヤヨイにブライトは頭を痛めるが、そこで更にトーレスが声をあげる。
「今度はカミーユから通信が入ってます」
「……繋げろ」
今度はなんだ、という言葉を必死に飲み込んで繋げるように指示を出したのはさすが一年戦争経験者である。
『艦長、あの艦とは敵対してはいけない』
「カミーユ……お前まで」
『あの艦からは純粋な狂気を感じる』
「純粋な狂気……」
また難解なことを……とブライトは頭を抱え込みたくなる衝動をなんとか抑え込む。
『あれは多分、今なら敵にも味方にもなる。でも一端敵になれば狂気が——』
カミーユの顔色が青くなりガタガタと振るえ始め、通信が途切れる。
ブライトはニュータイプの扱いづらさを改めて感じる……が少し考えて訂正する。
(いや、アムロはまだこれほどではなかったな)
「ティターンズのMS部隊が所属不明艦へ向け——え?!全滅?!……訂正!敵MS10機中3機撃墜、4機中破、3機小破判定!攻撃源不明!」
何が起こったのかわからず、アーガマどころかエゥーゴ全体、ティターンズ全体に動揺が走る。
続いてティターンズのサラミス2隻から爆発が起き、沈みこそしなかったが中破、戦闘不能判定となった。
「いったい何が……いや、このような現象は確か一年戦争の時にも……」
「ふむ、ビットの方はともかく、ファンネルの調子が今ひとつだな」
こちらに向かって来ていたMS10機を全て撃墜するつもりで攻撃したにも関わらず、撃墜できたのは3機と何とも情けない戦果だ。
しかも3機は小破とは……恥ずかしい限りだ。
「まぁ、これは私の経験不足か」
ファンネルは近中距離攻撃用であるのだが、思わぬ反応をすることになった。
実は……私が敵の放つ殺気に敏感に反応してしまい、ファンネルの統率がイマイチ上手くいかないのだ。
シールドビットはそもそも防御用なので殺気に反応するのはいい、長距離用ビットは対象は遠距離であったり艦が相手であるため殺気の量が多いので簡単に判別できる。
しかし、相手がMSとなると機動性や運動性も艦とは比べ物にならないことはもちろん、パイロット1人分の殺気しかないため微弱だ。だが、殺気が微弱なばかりについつい反応してしまう。これがファンネルの統率を乱されている原因である。
「イラッとしてプル達の訓練も兼ねるつもりだったサラミスを落としてしまったが……まだ敵はいるし問題ないだろう」
さて、プル達の……プルシリーズの初陣はどうなるだろう。
それ相応に育ててきた。しかし、人を殺すのも人が死ぬことに直面することも初めてだ。
これからどういう反応を示すのか、科学者である私もある程度パターンは予測できるがどの個体がどうなるというのはわからない。所詮ニュータイプとして異常と言われる私でも人間には変わりないのでわからないことなどいくらでもある。
普通の人間よりは知っていることが多いだろうがな。
「これを乗り越えた時、プルシリーズが傑作となるか駄作となるかが決まる。さあ、見せて……」
『こちらプル20、サラミス級撃沈確認』
『こちらプル12、未登録MSを鹵獲、回収を希望』
『プルプルプルプルプルプルプルゥ〜』
『ふん、この程度か、ティターンズも大したことないな』
『……アレンより弱い』
……特に問題なさそうだな。
それにティターンズが既に半壊しているのだが——ん?あれは——
『未登録MS……MA?を確認、鹵獲もしくは撃破します』
プル18が対処しようと動く。
それに念のためシールドビットを追従させる。
プル18はファンネルを飛ばしてオールレンジ攻撃で機動力を殺そうとするが、見事な操縦で全てかわされる。
「ほう、なかなかの腕前だな。荒々しい思念とは違って技巧派だ」
しかし、これはプル18では荷が重い——と思った瞬間に鹵獲機体を気にして警戒を疎かにしていたプル12が撃破されるイメージが脳裏を過る。無意識ではあったがシールドビットを動かしてビームを防ぎ事なきを得た。
「なかなかというレベルではないな」
ニュータイプではないようだが、歴戦の強さを感じる。
プルシリーズの連携が拙いというのもあるが……やはり多対多の経験が少ないのも問題だな。
空間認識能力が高いことが敵への警戒を散漫させることになっている。
「プル、プルツー、あの未登録MAを迎撃しろ。撃墜しても構わん」
『りょうか〜い』
『私だけで十分だと思うが……わかった』
この2人が連携して負けることはないと思うが……いざとなったらアッティスの全力で仕留めるか。