第八十七話
ルナリアン達やエゥーゴとの交渉にはコロニーの軌道変更などをしないといけないのでしばらく時間があるため、戦闘データをまとめておくことにした。
キュベレイIIの中破とファンネルの損失の多くは……まさかの自軍同士の誤射というなんとも間抜けなものだった。
敵の殺意を感じることは比較的簡単だが、味方の誤射は殺意も無ければ敵意も無いため、無数のファンネルが飛び交う戦場では苦労したようだ。かくいう私も苦労した。
シールドビットを張り付かせていたおかげで致命的な同士討ちを防げたが、結局防ぎ切ることができなかった……さすがに3つも4つものビームを数少ないシールドビットでは防ぐことなどできん。
こう考えるとファンネルの最大運用は乱戦前だけにして乱戦時は個数制限しておいた方がいいかもしれない……いや、それじゃせっかくのオールレンジが意味をなくすからやはり経験を積んでいくしかないか。
もし武功賞的なものが私達にあれば1位私、2位プルツー、3位プルと言ったところだ。
私が武功賞を与える側だとするならプル3が3位に繰り上げとなる。
あの可変MS……ギャプランというらしいが……を撃墜できたのはプルとプルツーの功績だ。
そしてプル3は日頃はあまり口数が多い方ではないが、プルツーに代わって戦闘の指揮を採ったからだ。
戦利品もビーム兵器が使えない微妙だがバランスはいいハイザック、装甲材を調べるとなぜかガンダリウムγが使われていたフルムーバブルフレームである赤いザクもどきことマラサイ、なぜか真後ろに死角があるギャプラン……いや、別に真後ろなんて見えなくても別にどうとでもなるがな。
他にもアッティスのメガ粒子砲を耐えた、アクシズでは考えられない耐ビームコーティングが施されたサラミス級の装甲が手に入ったのはなかなかの戦果と言える。
これを分析できればメガ粒子砲にどれぐらいの出力が必要なのか有効射程などがわかる。
耐ビームコーティング自体はアッティスがIフィールドを搭載しているためあまり優先順位は高くないが、保険としては有りだ。
「そして何より……コロニーだぞ?コロニー……私の研究施設、実験施設……そして戦うコロニー……」
(ここにはプルシリーズしかおらず、ツッコミ役不在。つまりアレンの暴走し放題である)
ふむ、今まで戦闘用のプルシリーズしか育ててこなかったが、コロニーなんて代物が手に入ったなら研究・開発用のプルシリーズも育ててみるか、労働用プルシリーズなどもいいかもしれない。しかし労働用というのはイマイチピンとこない。
戦闘用と労働用の違いは……回復力の向上?いや、そんなものは両方に備えさせるべきだ。
となると……同時作業ができるように手でも増やすか?エロ触手をわざわざ用意するのも資源が必要だ。ああ、いや、今の状態だと鉱物資源より食料資源の方が重要か、となるとエロ触手の方が——
「ん?電文か……ルナリアン達とエゥーゴの連中か」
電文の内容は話し合いの場を設けるというものだった。
まぁ当然の結果だな。
あちらにヤヨイ・イカルガがいること感じていたし、あちらも当然私の存在に気づいただろう。
私に敵対するということはアクシズを敵に回すということになりかねない。
そうなるとエゥーゴやルナリアンはティターンズとアクシズを両方相手しなくてはならなくなる。辺境にいた頃のアクシズならルナリアンが交易を閉じれば干されて終わりだっただろうが、既に地球圏のすぐそこまで来ている以上はそう簡単に終わることはない。
まぁそもそも私達と戦うことを選択した場合、私達を全滅できたとしてティターンズやアクシズと戦えるだけの戦力が残るとはとても思えないがな。
とりあえずコロニーはフォン・ブラウン市やグラナダ市への突入コースから外すように離脱させ……もっとも無理をすれば出来なくもない場所に停留させた。
「さて、この出会いが吉と出るか凶と出るか」
まぁどちらにしてもコロニーは頂くがな。
交渉の場はアッティスとペガサス級の派生艦らしいアーガマという艦の1対1でその真ん中に連絡船で行われることになった。
私達の所属は一応伝えてあるが、10機以上の新型MSを運用する謎の艦から一方的に伝えられた情報を鵜呑みにするほど間抜けではないらしい。
……もっとも、アーガマ単艦では私抜きとは言え、プルシリーズに勝てるかどうかは疑問だが。
「まずは私のことは知っているだろうが一応自己紹介を……ん?なんだその反応は?ヤヨイ・イカルガ軍曹から私のことを聞いているだろう?」
「確かにヤヨイ軍曹はなにか知っているようなのだが、なぜか話そうとしない」
良く思えば私の情報漏洩を防いだ。悪く思えば面倒を押し付けられた。
「さて、どっちだろうな……そこんとこ詳しく聞かせてもらおうか」
必死になった隠れているようだが……張本人が来ているし、直接聞いてみることにした。
「あわわわわわ?!た、ただただ怖かっただけであります!」
…………まぁ、いらんことをべらべらと喋られるよりは良かったとしよう。
知らないとは思うが、クローン研究の話なんぞされては無意味に悪印象を与えかねんからな。
とりあえずは——
「そこのニュータイプを連れてきたことに免じて今の失言は聞かなかったことにしよう」
(よかった!嫌がるカミーユを無理やり連れてきた私ファインプレーよ!)
(僕を生贄にしたな?!)
「俺はニュータイプなんかじゃない」
「ふーん……そういうタイプか」
コンプレックスの塊のようなやつだな。
これは引き抜くことが難しいか……ふむ、人間関係も色々と面倒そうだ。
私達のように隠し事が少なく、和を重んじる(とアレンは主張)中では居辛いかもしれない。
多少は苦労はしたとはいえ、なんだかんだと辺境という名のぬるま湯にいる私達(ハマーンやイリアも含む)と両親の命を奪われながらも戦場を駆ける彼とは相容れないだろう。
「さて、ならば自己紹介しておこう。私はアレン・スミス、アクシズの偵察部隊として派遣された民間人だ」
「私はブライト・ノアだ。ところで幾つか確認したいことがある」
ふむ、何やら動揺しているようだな。
アクシズのことか?
「アクシズというのは確かジオン共和国に帰属するのを拒否したジオン残党……ジオンの生き残りという扱いだったと思うが」
「その通りだな」
「その偵察部隊がなぜ民間人なのだ。そもそもあの艦はともかく、MSまで個人所有だというつもりか?」
「と言うつもりも何も私所有だが何か?」
「……」
(ヤヨイ軍曹、彼が言っているのは本当なのか)
(間違いないです。アレン博士は以前から機数はもっと少なかったけど個人でMSを所有してましたから……)
(民間人がMSを……しかも最新鋭機を所有するとは……世も末、だな)