第九十三話
ミソロギアに帰還すると、とりあえず居残っていたプルツー達に労いと休暇を与えることにした。
居残り組は今まで本当に最低限の居住設備(空調、トイレ、ベッドのみ)を整えたコンテナで過ごしていたのだ。
娯楽などは別としても風呂どころかシャワーすらも利用できなかった(入浴施設はアッティスにある)のはさすがに不憫過ぎる……これでも紳士であるからそれぐらいは気にかけるぞ?研究や訓練でなければな。
しかし、今回のことでわかったこともある。それはプルツーにある程度指揮権を与えても問題ないことだ。
元々他のプルシリーズ達にも影響力が強くなっていたし、責任感が人一倍あるプルツーだから任せたのだが、柔軟に人に頼るということも熟したことで更に評価を上げた。
「ふむ、プルツーを副官として教育するか」
MSパイロットとしての能力も優れているが、パイロット能力よりも指揮能力の方が希少だ。
年長であるプルは甘えん坊で良く言えば気まま、悪く言えば我儘であるからあまり指揮官には向かない……統計的には長女が責任感が強い傾向にあるというのだが……統計はあくまで統計でしかないということだな。そういえば長女に気ままな場合次女がしっかり者になるという統計もあったような気がする。そう考えれば間違ってはいないのか。
「これで私も楽になるな」
真剣に寝ながらサイコミュを……特に艦内のエロ触手を動かせないか考えていたからな。まぁ無理だったがな。
プルツーには営業マニュアルでも渡しておくか、外交の基本は営業と同じ……はずだ。
それにしてもスパイなんていう害虫が侵入したにはしたが、大きなトラブルがなくてよかった。
てっきりルナリアン共は私達を連邦に売っぱらうかと思ったが……ああ、そういえば今の連邦軍はティターンズの下部組織になったのだったな。なら恩を仇で返してまで売っぱらう気にもならないか。
「ということは故意とは考えづらいか」
現段階でアクシズを敵に回すような行動はあまりしないとは思うが用心はし過ぎてちょうどいいぐらいだからな。
さて、次はやっとシャア……こちらではクワトロと名乗っていたか……との面会だな。ある程度話がまとめれればいいが……ん、通信……アクシズからか。
『元気そうで何よりだ』
「そちらもな」
挨拶はそこそこにまずはこちらで起こったことを伝える。
大事はティターンズがサイド2で毒ガスを使おうとしたこと、小事はミソロギアにスパイが紛れ込んだことを話した。
『ティターンズはジオンの再来でも期待しているのだろうか』
「そういう考え方もできるな」
ティターンズが権力を持ったことによりアンチスペースノイドの気質も相まって暴走、と考えるよりもう1度ジオンのようなスペースノイド主体の国を興そうとしていると考える方が自然だ……もっとも何のためなのかは不明だがな。
『地球圏への帰還が決まった』
「私の予想より少し遅かったな」
『帰還と共に戦闘となる可能性があるので最後にと大規模な模擬戦を実施したのだ』
なるほど、私が知っている限り、小規模の模擬戦を行ってはいたが大規模……おそらく全軍をあげての模擬戦など行ったことはない……あるはずもない。
「それはぜひ見てみたかったな……感想は?」
『全体で見れば新興国の軍としては良い練度だ』
つまり正規軍から比べると劣る、と……当然と言えば当然か。
『ガトー等のベテラン勢はさすがの一言に尽きる。新兵は気合だけは十分だ』
気合……根性論はあまり好きじゃないのだがな。
しばらくはエゥーゴを盾にして後方支援に徹した方がいいかもしれんな。
気合だけは十分だから苦労が絶えなさそうだが。
「なかなか明るい未来が待っていそうだな」
『……アレンの活躍も期待しているぞ?』
民間協力者である私達に期待するほど当てに出来ない、と。
しかし、私達は私達で問題がある。
まず、思った以上に実戦というのは強い思念波が飛び交い、プル達に影響を与えていることが判明した。
その結果、模擬戦ほどの能力を引き出すのは難しく、だいたい70%程度といったところだろう。
これがなかなか厄介なことで、本人達はいつもの調子で戦っているつもりでいるのだ。つまり自覚症状がないため治すことも難しい。
続いてファンネルのビーム出力の低さと集団運用の弊害、そして飛び交う殺気による操縦の迷いだ。
ビームの出力の低さはティターンズの耐ビームコーティングが私が予想していたものより優秀だったことの裏返しである。
ティターンズやエゥーゴのエネルギーパックの技術が手に入ったのでそれを応用すればあまり時が掛からず解決するはずだ。
続いて集団運用は……これは慣れだな。
そして最後のは私だけの問題なのだが、やはり殺気に過敏に反応してしまうため何か対策が必要だ。
これだけ問題を抱えているのでやはり前線で戦うのはもう少し時間が欲しい、とハマーンに素直に伝えた。
『ふむ、何事もスマートに行くものではないな』
「ああ、ニュータイプは感覚に頼っている部分がほとんどだから尚の事な。」