第九十五話
シャアから引き出せたエゥーゴの情報はあまり多くはなかったがいくらか有益なものがあった。
1番はエゥーゴに合流しているジオン残党の多さだ。
アクシズや私が予想していたより多くのジオン残党がエゥーゴに合流しているようだ。
これはアクシズに合流する数が減るという見方もできるが、エゥーゴはアクシズに対してそれなりに配慮しなくてはならないという見方もできるのだ。
いくらシャアが代表をしているとはいえ、エゥーゴは地球連邦軍の一派閥でしかない。ジオン残党が仇敵である連邦軍に属しているのは一重にティターンズの行き過ぎたアースノイド主義に反発してのものと独自勢力での抵抗に限界を感じたからに過ぎない……はずだ。
それに多くのMSパイロットはジオン残党から起用されているらしい。操縦系統が違ってもやはりジオンのMSパイロットの操縦技術は連邦のそれを上回っているようだ。
これらの理由もあってアクシズは有利な交渉を持ちかけることができるだろう。
ちなみにジオン残党が思った以上に残ったのには私の活躍があったようだ。
正確に言うと私の開発、というべきか。
以前、ザクをゲルググ並に引き上げた改修案を出して、ジオン残党に流通させたことが思った以上に効果を発揮したようなのだ。
実はアレン・ジールとキュベレイぐらいしか役に立っていないと思っていたので少し嬉しかったりする。
ただ、気になるのはここのところ連邦軍の協力者の増加していることか……あまり悠長にしていてはせっかくのアドバンテージが失われてしまうかもしれない。
そして確定情報ではなかった白い悪魔に関しては……まさかの真実であることが判明した。
エゥーゴを敵に回すと赤い彗星&白い悪魔のタッグを倒さないといけないということになる……しかもアクシズでこの2人を倒すとなると精鋭が当てられる可能性が高い。
つまり……私達が戦う可能性が高いということだ。
もし2人同時(もちろん2人だけではなくその他大勢も含む)に相手をするとなるとそれ相応の損失も覚悟しなくてはならない。カミーユ・ビダンも含めると考えたくもない。
救いは白い悪魔はエゥーゴではなく、カラバに所属している点だろう。
カラバは今のところ宇宙での活動は確認されていないので宇宙に上がってくることはない……といいな。
「ところでミネバ様の様子はどうだ」
ミネバ『様』ねぇ。敬う気持ちなんてないとオーラが言っているぞ。
まぁ気になるのは事実だろうが……どうもザビ家には思うところがあるようだしな。
「残念ながら私はミネバに会う機会は与えられていない。この天才がせっかく教育しようと申し出たと言うのに逆に教育に悪いとか言って断られた」
解せぬ。
「なるほど」
先程と同じようにシャアは頷いて肯定した。解せぬ
まぁ今語ったのは事実の一面でしかないがな。
もう一面はミネバの影武者であるプルシリーズの秘匿にある。
万が一プルシリーズの存在がバレた時にミネバの影武者まで巻き込むわけにはいかないからだ。世論で私が迫害されたとしてもハマーンが協力してくれればどうとでもなるが、影武者の件がバレてしまえばハマーンも巻き込んで失脚させてしまっては立ち行かなくなる……と当時は思っていたのだ。
今だとコロニーと物資を手に入れたのでどうにかなるかもしれないがな。
ルナリアン、いや、アナハイムとの話し合いを終了した。
まさか会長のメアリー・ヒュー・カーバインが出てくるとは思いもしなかった。
相手がトップを出してきたのだからこちらもハマーンを……ということはできなかった。
アクシズは移動中であるため通信ができない……こともないが、通信手段は限られていて、その通信も傍受される可能性が高いということでリスクを避けることにしたのだ……表向きの理由は。
本当はただ単にハマーンが忙しすぎて時間が取れなかった……というのが半分、もう半分はどうせ直接会うことになるのだから私に任せるとのことだ。
……無茶振りもほどほどにして欲しいのだが……ちょっと甘やかせ過ぎたか?今度あったら軽くトラウマを……訓練をしてやらないといけないか。
「それにしてもサイド3を簡単に譲渡してきたな」
そんなに複雑な交渉をしなくても譲渡は了承された。
もっとも自力で占領することが前提だが、それは当然だろう。
そしてアナハイム経由でサイド3に伝え、受け入れ準備という根回しも進めるということになった。
武力制圧ではなく、連邦軍からの解放という扱いにするためだ。
こういう大義名分はちゃんと作っておいた方が後々効いてくるはずだ。
これでエゥーゴが派閥争いに勝利すればアクシズはジオン再興、もしくは建国が可能ということになる。
しかも、連邦の承認を受けたも同然なので旧ジオンより地位は盤石なものとなるだろう。
「面倒事が終わって、これでようやくミソロギアを改修できるな……とは言っても外壁の修復はもうすぐ完了するがな」
まだまだ点検は終わっていないが、見た目的には修復が完了間近だ。
これによりデブリが侵入してくることはなくなったので居住設備の整備を始めようと思う。
まだ外壁もハリボテに等しいのでコロニー内に空気を充填するのはまだまだ先のことになる。
「居住設備はユニット式だからほぼ置くだけで終わってしまうのは誤算だったがな」
てっきり組み立て式かと思っていたのだが、アナハイムから届いたものを確認するとコンテナを利用したユニット式で取付簡単なものだった。
こんなことならサイド2に出る前にとっとと設置しておけばよかった。