第九十六話
久しぶりに研究や開発の話をしよう。
何とか時間を捻り出してまず行ったのはファンネルの改修だ。
出力に問題……問題と言うほどではないが、戦闘に支障を来すので手に入れたエネルギーパックを応用してどうにかならないかと思ったら案外どうにかなった。
これでファンネルの有効射程が伸びるし、戦艦相手にもある程度は有効だろう。
ただし、ファンネルは数が多いのでまだ全体の30%ほどしか改修が終わっていない。
続いてバイオセンサーに関してだがMSへの恩恵はほとんどない。キュベレイIIに搭載されているサイコミュは機体制御も込みであるためバイオセンサーには影響がほとんどない。
バイオセンサーとサイコミュの役割を機体制御とファンネル制御に分けるとしてもサイコミュを改造しなければならず、そんな時間は取れない。
強いて言えば改造したザクとドムにバイオセンサーを搭載して少しは追従性が増したぐらいだ。
しかし、これらはMSに限って言えばのことだ。
「ふむ、なかなかのものだな」
バイオセンサーをあるものに導入した。
そのあるものとは……触手である。
忘れているかもしれないが、エロ触手はサイコミュ兵器の一種であり、サイコミュの近くでないと起動しないものだ。
既存のサイコミュは大きく、とてもではないが持ち運びできるようなものではない。しかし、このバイオセンサーは機体制御に特化している故に小型化されている。
そしてエロ触手はそれそのもが機体であるためバイオセンサーとの相性がよかったのだ。
「サイコミュで操作していた時よりも断然反応がいいな」
以前はサイコミュと距離がある場合がほとんどでタイムラグがあったがバイオセンサーでほぼ直に操作している今ではほぼタイムラグなどない……とアサルトライフルの連射(模擬弾)を弾きながら思う。
アッティスの触手も同性能にしたいと思うが、そちらは元々遠隔であるためバイオセンサーを使う余地がない。あえて意義を見出すとするならサイコミュと違ってコストが安いことと搭載してあるサイコミュに余裕ができることだ。
しかし、バイオセンサーは元々遠隔操作するための機能が備わっておらず、改造しなくてはならない。……まぁ私がその気になれば操作はできなくはない。ただし私の疲労が3倍ほど増すこと考慮すると無しだ。
「だが、これでハードルは下がったな」
エロ触手を使う上で問題だったタイムラグは他のニュータイプが操縦するには難易度が高かった。
それがバイオセンサーにより解決したとあれば——
「よし、プルシリーズの標準装備としよう」
話をしたらなぜかプルシリーズがデモを起こした。
まぁOHANASIしたら納得してくれたので標準装備とすることを決定した。
ちなみにハマーン用やファンネルは使えないがこちらは問題なさそうなイリア用にも用意することにした。
後はサラミス級の破片から耐ビームコーティングの耐久性を検証した結果をアッティスのメガ粒子砲の出力に反映させた。
元々出力には余裕があったので出力を上げること自体は問題がなかったが、ロングレンジ用に高出力にしたばかりに砲身への負担が大きくなってしまい、冷却に時間を取られてしまい連射性は悪くなってしまったがやむを得ない。
これで多少は戦いやすくなるだろう。
ミソロギアのクローン施設が整い、プルシリーズが新たに5人加わり、キュベレイIIを3機増やしたところでアクシズから通信が来た。
相手はもちろんハマーンだ。
連絡内容はアクシズがもう少しで地球圏に到達するというものだった。
時間の流れとは早いものだな。
これからが本当の戦争が始まる——
「ん?……ハァ、私達の戦争は既に始まっているのだったな」
明確な敵意、刺すような殺気、軍人に夢を感じているだろう純粋さを感じ取った。
感じ取った思念の方角からするとミソロギアにも月にも向かえる軌道だが、思念が向けられているのは明らかにこちらであることから目的は私達だろう。
数は……人の数からして4隻、アレキサンドリア級1、サラミス級3か……それにアレキサンドリア級は以前の艦とは別だな。乗組員に1人も覚えがない思念波ばかりだ。
それにしても我が事ながらニュータイプというのは便利だな。私がアッティス艦内に入れば奇襲されることがない上に、会ったことがある者達なら感覚でわかり、大体の戦力も把握できる。
これはなかなかのアドバンテージといえる。
「防衛設備が整っていない以上、防衛戦となればミソロギアに被害が出る可能性が高いか、プル22、防衛マニュアルBだ」
だからこそ防衛にも有利に動ける。
これがもしオールドタイプならこれが囮かと疑わなければならない。
「了解——アレン博士より防衛マニュアルBを発令、シフト確認を忘れないように。繰り返すアレン博士より防衛マニュアルBを発令、シフト確認を忘れないように……」
ミソロギアに駐留するのはキュベレイIIが3機とプルシリーズ8人と決めた。
プルシリーズが残るのはシフト制で決まっているが……さて、今日のパイロットのシフトは……隊長はプルツーとプル3でプルが留守番か……不安しかないな。
プルツーは前回が留守番であったことから気合が入り過ぎていそうだ。
プル3は……おそらくいつも通りだろう。
別働隊がいないなら全軍で迎撃に出ればいいと思うだろうが、これも訓練の一環だ。
はじめてのおつかいも大事だがはじめてのお留守番も大事なのだ。