第九十八話
宇宙の戦闘は地球の戦闘よりあっさり決まることがある。
それは生活物資の供給を支えるものが途絶える時だ。
この戦場で言えばアッティスであり、アレキサンドリアであり、サラミスがそれにあたる。
そして……その軍の大動脈と言える母艦であるアッティスがもし護衛を3機ほどのMSしか連れていなければ敵はどうするだろうか。
まぁわかりやすく言うとアッティスが囮となって敵をクロスレンジに誘い込もうとしているわけだ。
敵はどうするだろうか、罠とわかっていても突撃して大動脈を絶ちに来るか、それとも良く言えば半包囲、悪く言えば戦力の分散に目をつけて各個撃破に動くか。
どちらを選んでも陣を動かして包囲するのには変わりがないがな。
さて、相手の選択は——
「ふむ、多勢で各個撃破を狙い、少数精鋭で首を取りに来るか」
どっち付かずで来たか、私からすると中途半端な対応で、二兎追うものは一兎をも得ずを体現しているように思えるが……相手はプロということは一石二鳥なんだろう。
こちらの戦力は2回の戦いである程度把握しているはずだが……私の方に見落としがあるのだろうか。
「いずれにしてもガンダムタイプがこちらに向かってきているのは好都合だ」
アッティスの護衛にはプル3、7、9と一桁ナンバーを揃えているのでそう簡単には遅れを取ることはないだろう。
そして何より、陣形を取り入れたことで開幕ではファンネルの威力が十全に発揮することができる。
「ん?」
あのガンダムタイプ、この距離でライフルを構え——
「チィ!」
急いでシールドビットを動かして1体のキュベレイIIを庇わせ、そして間を置かずに着弾。
どうやらあのガンダムタイプの持っている武器は狙撃を重視したライフルのようで距離があったにも関わらず威力も高く、シールドビットの姿勢制御では耐えきれずに吹き飛ばされてしまったが、キュベレイIIは無事だったので良しとしよう。
「やはり訓練だけでは得られない経験というものがあるな」
狙撃などというのは珍しくもない攻撃手段だ。にも関わらず、プルシリーズはまともに対応できていなかった。
それはやはり経験がないことが問題だな。
このぐらいの距離なら安全だろうという思い込みは戦闘では死につながる。しかし、わかっていて防げるなら思い込みなんぞ始めからしない。だからプルシリーズを責めるつもりはない。
そもそも予期していなかった私のミスだ。
それに今回狙われたのが28と比較的若いプルシリーズだったこともあるだろう。
そうでなければ避けることは難しくはないはずだ。
(あくまでニュータイプの中でも規格外のアレンの主観であり、プルシリーズが避けれるかはまた別の話)
「それに……敵もガンダムタイプに乗るだけあって腕がいいな」
あの距離でニュータイプでもないのによく当てれたものだ。
少し警戒レベルを上げておこう。
「さて、予想外の手土産があったが、こちらも歓迎しなくてはならないな」
今回はファンネル総出の90機で出迎えようではないか。
もう油断はせんぞ。
「ゆけ、ファンネル達」
アレン一派vsティターンズ、T3部隊が衝突した。
T3部隊は元々試作機を運用する部隊であるが、試作機で戦場に出ることも多々あり、その腕前は他のティターンズに勝るとも劣らないものだ。
臨時的に編成された他のサラミス級3隻もティターンズの所属であり、搭載MSもアレンはガンダムタイプに心奪われていたので見元していたがガンダムmk-IIをベース……と言う名のムーバブルフレーム……に、TR-1の技術を盛り込んだ最新量産機であるバーザムが満載されているところから精鋭であることがわかる。
バーザムは他の量産機とは違い、連邦やティターンズのオプション装備を使用できるという優れた機体だ。
今回の戦いにもキャノンを搭載した支援機がいたり、ガルバルディβのシールドを持っていたりと様々な出で立ちだ。
それに対して容赦なくファンネルの群れが放つ、ビームの雨が襲いかかる。
改修されたファンネルの有効射程は伸び、正面上下左右から嫌になるほどのビームが死を届けている。
瞬く間にバーザムが8機消えた。しかし、それは精鋭のティターンズだからこそその数で済んだ。
その証拠にまだ32機もMSが残っている。
その中には当然、ガンダムタイプ……ガンダムTR-1 ヘイズル・アウスラ ギガンティック・アーム・ユニットも存在している。
TR-1とバーザム4機が先陣を切ってアッティスに向かう。
残りの27機のバーザムがキュベレイIIに応戦しようとするが、あまりの火砲の多さに右往左往して躱すことで精一杯、いや、また1機、また1機と時間が過ぎるほど落とされていく。
なら本命であるTR-1達の方は順調かといえば、当然そんなわけもない。
恐ろしい数のファンネルを相手に落ちないようにするだけで必死な状態に追い込まれている。
落ちていないのはアッティスのファンネルは改修前で低出力のため威力が若干不足していることと鹵獲目的で慎重に無力化しているためだった。
つまり、その気になれば落とそうと思えば落とせるのだ。
それを証拠にバーザム2機がファンネルに集られて火玉になって消えた。