第十五話
しばらく考えて諜報は来月にすることにした。
情報というのが大事だということはわかっているけど月初めに1つ降格するというなら既に3日目になっている今月よりも来月一杯利用した方がいいと判断だ。(この時、誠信は気づかなかった、1月は31日まであるが2月は28日までしかないことに)
さて、朝飯も食ったし、任務に行こうと思う。
しかし、今日は少しいつもと違う。
「さあ、見せてもらおうか、ツィマッド社の力というものを」
というわけで今回はザクではなく、ヅダ、つまりツィマッドのテストパイロットを受けてみることにした。
参加報酬がザクとヅダが並び、ランク報酬があるヅダの方が報酬がいいからだ。
ザクの無重力の方が報酬はあるが、まだ時期尚早だと思っている。推進機関があるとはいえ、無重力は舐めてはいけない。MSで暴走させたら特別仕様で死にはしないだろうけどヘルメット内が吐瀉物だらけになる可能性がある。
狭い狭いヘルメット内で吐瀉物、そしてそれはゴールするか制限時間が過ぎるまで終わらない……うん、悲劇だろう。だって運が悪かったら視界が0、そしてすえた匂いの中だぜ?そんなの遠慮願いたい。それにゴールしなかったの時のペナリティがないとも限らない。
任務を選択し、待機所でパイロットスーツを着て格納庫へ。
「……おお、そのまんまヅダだ」
プロトタイプザクは改めて冷静に思い出してみるとザクIとは結構違っていたんだけどヅダの姿を冷静に思い出してもヅダは今目の前に佇むヅダと変わらないものだった。
「……空中分解とかしないよな?」
スペックが上なんだからザクなどよりヅダを量産すればよかった。なんてネットで言われてたけど、よくよく考えればザクが量産されて当然だったんだな。
空中分解した機体に誰が乗りたがるのか。命を預けるのに不安がある兵器に需要なんてない。
これがテスト段階ならともかくコンペティションでやったなら取り返しがつかないと思う。
わかりやすく言うと、皆の前で暴発した優れたお高い銃とそれより劣るが動作が安定しているそこそこの値段の銃、どちらがいいかという話だ。
少なくとも特別仕様で負傷無効がなければ後者を俺は選ぶ。
まぁ今はコンペティション前の段階だからどちらの方が信頼性があるかなんてわからないけどな。
「では、早速出撃……の前に——」
『20分シミュレーションを開始します』
このボーナスはこちらにもちゃんとあった。
新しい機体とはいっても完全な初心者とはいえないからひょっとするとない可能性も考慮していたんだけど良かった良かった。
「おお、確かにザクより動きがスムーズだ。スラスターの出力も良い」
そういえば土星エンジンってまだ搭載されてないんだな。マニュアルには水星エンジンっていうパチもん臭漂うものが載せられている……これって原作にあったっけ?ああ、そういや土星エンジンって何やらリミッターが掛けられたものらしいからその基となるのがこの水星エンジンなのか?
「うっ——ただ、この冷却機能の悪さとサスペンションの悪さはどうにかならないのか?!」
動きが俊敏で、スラスター性能もいいのだが、それらを台無しにするコクピットに伝わってくる振動。
スラスターの出力がいいのは間違いないんだけど、ただジャンプするだけで振動がある上に、歩くのにも揺れが酷い。
OSが悪いのか、機体が悪いのか——
「……ああ!重力下で使ってるからか?!」
以前自分で言ってたじゃないか、ヅダは宇宙のイメージがあると。
つまり、俺の予想通りに重力下での運用には難があったということか。
まだ歩行訓練だから問題がないけど、近い内に射撃も行うことになる。それが加わるとなるとかなり使いにくい機体になるんじゃないかと思う。
まぁこっちは開発ゲージを貯めれば解決する可能性がある。
問題はこのスラスターの冷却能力の悪さだな。
機動性が優れているのはわかるけど、スラスターの出力が優れていても再使用までの時間が掛かり過ぎでは有り難みも半減だな。
「……ジオンも惜しいことしてるよなぁ」
このヅダとザクを足して割ればいい機体ができるはずだ。理論上は!
ただ、利害関係でそうもいかないだろうし、なによりもしそれをやろうとすれば高性能で安定した機体ができるだろうけど、それがいつ出来上がるのかが問題だ。
最高の機体を目指すと天井はない。
しかしジオンは連邦という強大な敵が存在し、ジオンから開戦しなくても武装組織が存在する以上、テロリストということで鎮圧に動く可能性がある。いい加減戦力で劣るジオンが先制を許してしまえばMSやミノフスキー粒子があったところで逆転の目はない以上、凝りたいのは山々だろうけど兵士の教育にも時間にも資源にも限りがある。
どこかで一区切りしないと何も出来上がらない、戦力が足りない、兵士弱すぎ〜なんてことになりかねない。
「ままならないなぁ」
今の所、ヅダ1機でザク2機を作れるなら間違いなくザク2機を取るぐらいの性能だ。仮想敵が質も侮れなず、その上数が多い連邦相手だから仕方ない。
まさか質を目指していきなりビグザムやノイエジール、アプサラスの少数でも量産を目指す……というのはさすがに無理があるだろうしなぁ。
それに宇宙だと数に任せて母艦を落とされてしまえば後は放置プレイで終了、拠点防衛ならともかく攻撃だと使い勝手が悪そうだ。
やっぱり数を揃えることが最優先事項ってことか。
「これが開発ゲージで成長すれば間違いなくいい機体になるのに……正規採用されなかった時のことを考えるとなー」
俺はあることを予想していた。
MSのレンタルにしろ実費購入にしろ、破損の賠償が存在する以上は整備が必要なのは間違いない。
そして正規採用されていないMS、正確にいえば量産されなかったMSの整備は量産されたMSのそれに比べると割高になるんじゃないかと思っている。
まず間違いなくMSのサイズによる整備費用の差はあるだろう。ザクの整備とビグザムの整備の費用が同じだったら断然ビグザムを使う……継戦能力に問題があるから微妙だが……そして量産機と特殊機、ザクとケンプファーが同じ整備費用だったとしたら納得がいかない。
ここの運営なら間違いなく整備費用の差があると思っていた方がいい。
色々な面でやはりザクの方が量産に向いている……と思うんだけど、1つだけ思うところがある。
「原作と同じ流れにして勝てるのか、ってことだよなぁ」
ザクの量産化を決めた場合、MS開発の流れはほぼ原作通りになるだろう。
それでジオンは連邦に勝てるのか。そもそもMSが多少変わった程度で勝てるのか。
「一般ピーポーな俺に戦略を練ろと言われてもなぁ。影響力が陳情1つだってのに……」
などと考えながらシミュレーションを熟し、任務も終了。
結果は——
「Bランク?ザクだとAランクのタイムのはずだけど……条件が違う?……これはもしかするとコスト比で基準が定められているのかな」
もしそうだとするとジオンはやっぱりコストパフォーマンスを重視していることになる。
そうなると余計にヅダが主力機になるというのは難しいな。
「まぁこの開発が出来レースだからという可能性もあるけど……だとしたら原作改変はかなり難易度が高いぞ」
いくら俺が頑張ったところでジオンが勝つとは思えない。
アニメではアムロが活躍しているけど、実際戦争で連邦が勝てた要因はアムロのおかげというわけではなく、あくまで連邦の地力とジオンの……ザビ家の自爆にあると俺は思っている。
アムロですらそうなのに俺程度が頑張ってどうにかなるのか?頭が痛くなるな。
残ゲージ:32072189G