第十六話
とりあえず、ヅダの不満点であるスラスターの冷却機能の向上とサスペンションの向上、それと任務中に気づいたスラスターの出力の不安定さをまとめて出しておく。
スラスターの出力は一定間隔毎に起きて、少し出力増減するようで危なくスラスターが融解しかけたり、滞空中に出力が減少して思った以上に降下が早くなって思わぬ関節へのダメージとなってかなり慌てた。
ん?いくら予期しないことだったとは言っても関節にあれほどのダメージが出るのはおかしくね?
ザクはスラスターみたいな明らかに弱いだろう部分以外の、つまりMS本体はこの程度で不安を感じることはなかった。
それに比べるとヅダの耐久力はあまり信用すべきではないかもしれない。
「やっぱり宇宙戦を前提に考えているからだろうか?……いや、もしかするとコストの削減という可能性もあるか?」
元々ヅダは生産コスト的に割高だ。だからこそ宇宙戦『しか』対応できなかったのかもしれない。
重力下での戦闘に対応してしまうと更にコストが割増……うん、可能性はあるな。
「となると陳情にどう影響するか気になるな」
この推測が正しいのかどうかはわからないが、この企業に対しての考察もレポートとして記載すべきなのか、それともいらない推測は省くべきか?前回のレポートでは改善点とその理由、そしてメリットを書いたが、あれはザクの、というよりMS全般のものだ。
今回はヅダのみのレポートとなるわけだからこのあたりも触れたほうがいいのか?……いや、面倒だし別にいいか。あくまで推測だし、広義に及ぶと却下されるってあったしな。
ああ、そういう意味では今回はスラスターの冷却と不安定さだけにしておくかな。
どこまでを広義と捉えるかわからないからスラスター関連でまとめ、サスペンションは別機能だから広義と捉えられる可能性があるからやめておいた。
んで、送った結果が——
「やっぱり定型文の返信メールか……」
まぁ別にいいんだけどな。ちょっとムカッとするのは俺の器の小ささだ。ええ、ええ、こんなところに監禁された状態でもこんなことで苛ついている俺が狭量なだけだ。そうに違いない。
「……ただ、嬉しいこともある」
それは今のゲージ、32072189G……そして俺の命は2800万。
つまり、俺の命、1つ分がストックできたということだ。
実感はもちろんない。
だって自分が死んだことを1回無効になるんだぞ?普通に考えてありえないだろ。
MSに乗ることだってありえないことなのはわかっているし瞬間移動もありえないことも。
でもさ、それらって基本的日常の延長なんだ。MSなんて車の延長、瞬間移動も移動が省略されただけ、疑似体験なら気絶して目が覚めたら別の場所だったら瞬間移動みたいに感じるだろう。
でも自分の命だぞ?異世界に召喚される方がまだ納得ができる……あ、今現在が異世界に召喚されたようなものか。中世ファンタジーものばっかり読んでたから忘れてた。SF系召喚ものもあるにはあったな。あまり多くはなかったけど。
「ん?身体が重い?ここのところちょっと無茶をし過ぎたか?今日は身体を休ませとくか。さすがにこのペースで無茶をしてたら本番以前に身体を壊すな」
3日目のほとんどを休憩と洗濯、そしてアイテム探しに費やした。
あれから少し時間が過ぎて0075年1月6日。
開始3日間に比べると特に変わり映えもなく、日常を過ごした……1つ以外は。
だいぶ慣れたので歩行任務1日10回をノルマとし、もっと細かく言えば1日に何度もMSをコロコロと乗り換えるのは習熟に影響しそうだから1日は同じ機体を選択することにした。
つまりザク、ヅダをそれぞれ10回やったことになる。
ランクはザクは全てA、ヅダはBが8回に……なんとAが2回だ。
ヅダは最初に1回、そして10回、合わせて11回任務を熟したわけだが、開発ゲージによるスペックアップは100、Bランクの開発ゲージ上昇が10だから10回でスペックアップするわけなんだが……気づいたか?Bランク10回でスペックアップ……でも11回中2回がAランク……つまり……そう、初期スペックの状態でAランクを取ることができたのだ!!
「ヅダはピーキーなイメージがあったけどそのとおりだな」
ザクとヅダの違いはスペックだけだと思っていたが、どうやら違うようだ。
ザクは安定しているが安定しているがゆえに無茶なことができないように作られていてヅダは不安定であるがゆえに無茶ができる……ただしその代償は機体に出るみたいな感じだ。
中世ファンタジーの話をしたし、武器で例えるとするか。
それだとザクは剣、ヅダはレイピアって感じかな。
ただただ丈夫で叩き斬る実直な剣と刺突に特化してその切っ先は変則的で技術がいるが脆いレイピア。
つまり、任務のゴール付近で後先考えずにヅダをぶっ飛ばしたことでAランクを勝ち取ることができた。
まぁ、任務達成後はいつもは格納庫に帰るはずなのになぜか待機所に帰ることになったけどな。多分ヅダはご臨終したんだと思う。
問題はそれを理解してしまった以上ヅダは量産機に正規採用されることはないだろうということも同時に理解した。
レイピアは貴族(エリート)が使うが兵士(一般)は使わない。それが答えだ。
「まぁゲージ稼ぎには使わせてもらうけどな」
とアイテム探しで見つけた視力回復用のピンホールメガネ(600G)ってのを装着した状態でつぶやく。
正直眉唾ものだったんだけど、そんな眉唾ものでも効果が立証されているのがこの世界のアイテムで、きっちり視力回復が付いている安心して購入できる。
元々俺は中学時代では視力がよくて、2.0だったんだけど今は0.8ぐらいだったかな?どこまで回復するんだろ。ちなみに社会人になるまでは1.5ぐらいだった……社会人って改めて大変だったなと思う。
それを知った時は、そうなんだ。と思った程度だった……だけどよく考えれば社会人になって0.7も視力が落ちるなんて結構ひどい話だよな。
それを感じる暇すらなかったんだから社会人ってコエー。
「と言っても今日はちょっとチャレンジしてみようと思ってるんだけどな」
今までは敬遠していた無重力テストに挑戦してみようと思う。
一昨日と昨日は筋トレを休んで任務を熟しつつ無重力空間で訓練に励んだ。
その甲斐あって無重力空間で移動中にうっかりクルクル回ることもなくなった。
ちなみに無重力空間での天敵が何か知ってるか?
くしゃみとあくびだ。
いやほんと、無重力遊泳中にこの2つをすると大変なことになる。特にくしゃみ……宇宙世紀の住人はどうやって克服しているんだ。あくびは、まぁ慣れたらなんとかなるかもしれないけどくしゃみはきつい。
というか普通に重力下でもくしゃみは身体がめっちゃ動くのに。
「んー……宇宙服に一々着替えるのが面倒だし、やっぱり変身ベルト買うか?」
アイテム探しの時になんのキーワードか忘れたけど仮面ライダーの変身ベルトが出てきてなんだろと思ってみたら、なんとこの変身ベルト、本当に変身……というか早着替え?ができる機能がついているのだ。
便利と言えば便利だけど必要がなかったのと、一々「変身!」と言ってジャンプしないと着替えられない仕様は誰もいないとはいっても恥ずかしい……いや、誰もいないからこそ恥ずかしいと言えなくも……いや、やっぱりどっちでも恥ずかしいんだよ!
購入履歴一覧
食費:4800
ピンホールメガネ:600
残りゲージ:47866789G(これは上記の購入分だけで今回未登場のアイテムがまだ引いていない)