第十八話
宇宙遊泳は思ったよりもスムーズに進んだ。
やはり推進機関の有無は宇宙では重要なんだなぁ、と改めて確認。
原作にあったパイロットスーツの推進機ぐらいくれてもいいんですよ、運営さん?
それはともかく、宇宙遊泳でわかったことがいくつかある。
いい面と悪い面があるが、いい面はまずスラスターの推力が安定したこと、重力がないことで機体への永続的な負担を気にする必要がないこと、加速させればさせるほど減衰しないため高機動が理論上は可能なこと、重力下とは違い空気抵抗で起こる振動が存在しないこと。
悪い面は、冷却能力の圧倒的低下すること、高速機動時に姿勢制御スラスターを吹かした際に発生するGがパイロットスーツが持つ効果である耐Gを超えること、そもそも姿勢制御スラスターが難しい、AMBAC(簡単に言えば腕や足を振って旋回する技術)が難しい、高速機動にソフト(自分とOS)が追いつけていけない、推進剤の消費量が早いなどが主な事柄だろう。
どちらも俺が持つヅダのイメージに良くも悪くもあっている。
ただ、致命的なのが冷却能力の低下だ。
宇宙は真空である以上、自身が発する熱は外へ逃げることはない。つまり熱いものはいくら待ってもゲームのように勝手に冷めることがないのだ。
つまり冷却する機関が存在するのだが、その冷却機関の能力が明らかに足りていないために水星エンジン自体に負担がかかり、本来のスペックが活かされていない。
更に言うとどうもエンジンの冷却に割かれているせいかスラスターの冷却も遅く、重力下(正確に言えば空気がある場所)よりもスラスターを吹かす時間が短くなっている。
「段階的に加速する手間があるだけで減速しないからそれはそれでいいのかもしれないけど……不安があるよなぁ」
20分間シミュレーションではゴールに後少しというところでたどり着けなかった……いや、まぁ、途中であまり密集していなかったけどデブリが多く浮かぶステージがあってうっかり衝突した後に対処が遅れて流されたり(おかげでヅダのコンディションセンサーはあっちこっちイエロー(注意)を発していた)、AMBACに翻弄されてグルグル回ってタイムロスがあったのも確かだけどな。
「んー、量より質か……宇宙で……ブリティッシュ作戦で終わるならヅダの量産もあり……なのか?」
ザクの機動力を確認していないからわからないが、ヅダほどの機動力を得られないのは間違いないだろう。
そして機体の冷却性能と生産コストさえ解決できれば問題はほぼクリアになる。
俺は『宇宙戦でのヅダ』は結構気に入った。まだ使いこなせてないけど本番までには平均以上の成績を収めることができるだろう。平均がどれぐらいか知らないけど。
……で万が一ブリティッシュ作戦が失敗したら即敗北、ゲームオーバーか。
博打が過ぎるな。自分の命をヅダに掛けるほど気に入ったわけではない。
いや、そもそもブリティッシュ作戦が成功したら戦争が終結するってのもザビ家の、ジオン公国の見立てであって、本当に地球連邦が降すことができたのかは甚だ疑問だ。
ジャブローが消滅すれば軍の上層部が全滅するのは間違いないだろうけど、地球連邦の重要拠点はいくつもあるだろう。常識的に考えて。
それに戦術的勝利すら得られてない連邦と連戦連勝のジオン公国が講和……ないだろ。両者が満足行く講和って何?
レビルの演説が連邦の戦争の継続を決めたみたいなことをアニメで言ってたけど、連邦市民はジオン公国に恨み骨髄に徹してるのは間違いなく、その上降伏に近い講和?連邦でクーデターが起こるか市民から総スカンを食らうか内部分裂を起こすかジオン公国でテロが起こるかのどれかだろう。
少なくとも平和になることはまずありえないと思う。
前の世界では気にしてなかったけど、レビルが演説の時に行われていた講和は本気のものではなく、コロニー落としから立て直すためのただの時間稼ぎなんじゃないかと今では思っている。
そもそも民主主義なのか怪しい連邦が殴られっぱなしで講和しようなんてないはずだ。
ん?そうか、内部分裂、つまり地球連邦を前の世界みたいな国を分裂させようって魂胆か。
地球連邦そのものを相手にするのはかなりきついから分裂させて各個撃破を狙う……確かに理には適っている。
そういう目線で見るとレビルの演説は地球連邦をまとめることになり、致命的な一撃だな。
そのレビルの脱走を防ぐことは俺にはできない。できるとしたらレビルを殺すことだけど……できるか?黒い三連星より早く見つけ出して撃墜することが。
「やっぱり初志貫徹すべきかな」
ザクを選ぶ、というのじゃなくて、俺なりにシナリオを考えてみた。……とは言っても不確定要素が多いからそのとおりにできるかわからないけど。
とりあえず、ジオン公国は捨てる。その後はどうしたらいいか悩むところだけど、目指すのはアクシズ、つまりネオ・ジオンでの勝利だ。
よくよく考えれば、多分1番勝利に近かったのはネオ・ジオン、つまりハマーンだったと思うんだ。
実際ハマーンは各サイドを制圧し、更にコロニー落としを実行してサイド3を正式に割譲に成功している。
グレミー・トトの反乱したせいで敗北してしまうが、これを防ぐことができれば勝利への近道になるんじゃないかと思う。
如何に足を引っ張る味方が邪魔かよくわかる話だ。
まぁそのグレミー・トトの反乱もひょっとしたら連邦の離間工作を行った結果の可能性も……もしそうなら連邦、侮りがたし、だな。
俺が思うにジオン公国が勝つ目は無いんじゃない。
なぜかって?よく考えればわかるけど、ブリティッシュ作戦、星の屑作戦、エゥーゴとティターンズの内戦、そしてネオ・ジオンによる地球圏の掌握、更にダブリンへのコロニー落としを行う。
ここまでやってやっと公式的にサイド3の割譲が認められた……ここまでやってだぞ?一年戦争から10年経ったとはいっても2度のコロニー落としから完全に立ち直ることはできていないはず、そして3度目のコロニー落とし。
これだけやってサイド3を正式に割譲させただけ……なんという涙ぐましい……ただしその後のネオ・ジオンは地球に対して強い影響力を持てたと思う。何よりネオ・ジオンは公式的に割譲、つまり立国することができた上に砲艦外交が容易だっただろうからな。
ジオン公国って地球連邦的には国じゃなくてテロリスト組織だからなぁ。国と認めてないから。
「つまりほぼ原作通りに沿っていってグレミー・トトをサクッと始末する」
これが俺のプランだ。
グレミー・トトを始末すればハマーン政権(あえてこういう)は安定する可能性があるし、エゥーゴに隙を突かれることもない。
問題があるとすればグレミー・トトがプルシリーズとクィン・マンサを握っていることとハマーン自身がジュドーにご執心であることか。
それでも一兵士という縛りプレイで全国制覇するシミュレーションゲームをするよりもラスボスを倒してハッピーエンドのRPGの方が簡単だろう。
原作は再現するまでもなく、俺1人ぐらいが動いたところで全体の戦況を左右できるとは思えないし。
「んー……ヅダ……個人的には気に入ったんだけど、だからって計画が……」
ヅダを採用すれば間違いなく歴史は大きく変わる。だが、歴史を変わると俺のプランが……。
「とりあえず、ザクも試してみてから考えるか……その前に目の前の壁(任務)を破らんにゃならんけどな」
実はゴールできなかったことがかなり悔しい。
20分シミュレーションだったからいい。しかし、本番であの体たらくはさすがにどうなんだ。
いや、自身も高速で動いてデブリもそれなりの動いているからかなり難しいのは仕方ないんだが、それでも納得いかん。
せっかくの加速性に機動性、多少の危険があるからと殺すのは勿体無いだろ。
「使えない機体ならともかく、使えないのがパイロットのせいなんて俺自身が認めん」
いつも以上に気合を入れて挑むぞ。