関曹 黄巾二
運命的な出会い(?)があった翌日から――
「曹操様からお荷物が届きました」
酒だったり――
「曹操様からお荷物が届きました」
派手さや豪華さはないがセンスの良い装飾品だったり――
「曹操様からお荷物が届きました」
既存の兵法書を曹操が注釈した本だったり――
「曹操様からお荷物が届きました」
原材料が何かわからない珍味だったり――
「曹操様からお荷物が届きました」
美しい手が傷ついてはいけないという理由でどう考えても名工によって作られた手甲だったり――
などなど一日一つ、たまに二日に一つと高頻度で贈り物が届けられた。
関羽も最初の内は――
「曹操殿も忙しいだろうに、ありがたいことだ」
と感謝をしていたものの一日一日と経つ毎にその思いは変動していくことになる。
「曹操殿は思ったよりも暇なのか?」
となり、そして――
(なんか怖い)
である。
想いとは両方が投げあって入れば平穏なキャッチボールというコミニュケーションとなるが一方的に投げ続ければそれはキャッチもアウトなドッジボールであり、一歩間違えれば虐めのようなものである。それが顔を知り挨拶を交わした程度の知り合いならばなおのことだ。
「一応返礼品も贈ってはいるが……」
贈られた物が重ければ返礼も重くなるのが道理で、その分思い悩むのも道理。
ちなみに最初に返礼品を、と思った時に真っ先に出てきた物が『蜂蜜』であったことは袁術に毒されている証だろう。
ただし、添え書きに『返礼に蜂蜜はいらない』と書かれていたあたり、曹操も袁術に毒されているのは間違いないだろう……紀霊を除けば一番古い付き合いであるのだから当然といえば当然だが。
「やはり一度時間をとって食事でも……」
贈り物だけでは限度があるだろうと何度もその考えに至っているのだが、その度に本能がストップを掛ける。
実際、曹操はこれを狙っての贈り物攻勢を仕掛けたのだから関羽の本能は正しい。
とはいえ、礼儀として会わないわけにはいかない。相手が太守でもあることであるし何度と共同で黄巾賊を討伐したことも加えると逃げ道はほぼない。
「ようこそ、関羽。待っていたわ」
「お招きありがとうございます」
結局周囲の平定し、仕事も一段落ついたところで食事を共にすることとなった。
断る明確な理由がない以上は仕方ない。
それに曹操の見識の広さは兵法書の注釈を読んでわかり、知見を得られるいい機会だと思っていた。
「食事なのだけど、せっかくだけど戦地ということもあるから堅苦しいのもどうかと思って気軽なものにしたのよ」
という言葉にホッと胸を撫で下ろす。
袁術の下で行われる宴は基本的に無礼講、というか主催者本人がやりたい放題して周りが引きづられる形であることが多いので良くも悪くも宴はどちらかというと格式張った貴族のそれではなく、庶民に近いものであり、元々庶民出身である関羽にとっては本格的な食事会など、一応マナー程度は魯粛や紀霊に仕込まれているがそれを披露するにはまだ自信がなかった。
そして目の前にいるのは今の漢王朝の権力者である宦官達との繋がりが強い曹操相手ともなるとプレッシャーは如何程か。
「さあ、こちらへ」
誘われて部屋に入ると――そこにあるのは食卓と席が二つ……そして屏風で隠して見えるか見えないかのギリギリの寝台のみ。
もっとも関羽の目には寝台が見えていないのは幸か不幸か。
それよりも気になったのは――
「ほ、他の方は――」
「今日は少し用事があって私と貴女二人だけよ」
別の意味でハードルが爆上がりである。
しかし、だからと言って拒否することも非礼なために勧められるままに席へ着く。